13. メッセージ

モミジが去ってから1年が過ぎた。カエデはあれから学校へも行かず、母親とも話をせず、ずっと部屋に引きこもり続けていた。

母親が3食欠かさず差し入れてくれる食事にもあまり手をつけず、ひたすらバルコニーに出て椅子に座るという虚ろな毎日を送っていた。


「やあ、おはよう。」

耳元で、あの鈴を転がしたような透き通った声が聞こえた気がした。

どうやらうたた寝をしていたらしい。夢うつつのハッキリしない頭のまま、辺りを見回す。


椅子から立ち上がりかけたカエデは、肩にブランケットが掛けられていることに気づく。

虫の声が静寂を彩る、秋のバルコニー。

辺りはそろそろ日が落ち始めていてそら寒く、彼方に美しく広がる夕暮れの空を望む。

傍のテーブルには缶コーヒーが置かれていた。

誰が置いてくれたものかと訝しんでいたカエデだが、不意に鮮やかな紅葉の葉が添えられていることに気づく。

缶コーヒーに手を伸ばす。まだ温かかった。

キョロキョロと周りを見回すが、やはり誰もいない。


・・・慣れない手つきでプルタブを開けて、口に含んでみる。

甘苦くてあまり美味しくない。

「モミジみたいに大人になれば、これも美味しいのかな・・・。」

缶のラベルを見ながら、渋い顔で独り言つ。

カエデ自身、今のまま行ってもドン詰まりの未来しか無いことはとっくに気づいていた。

「なれるのかな・・・?大人・・・。」

缶の温もりを両のてのひらで押し包みながら、また呟く。

どこかで変わらなければ未来は無い。


部屋の中に目をやると、母親が今日も差し入れてくれた夕食が湯気を上げているのが見えた。

いつも、空腹を覚えていない時は手も付けずに放置していた。食べてもほんの少し。

娘から拒絶され、乾いて冷め切った食事を下げる時、母は何を思うのだろう。

カエデはのろのろと立ち上がると、扉の傍に座り込んでスプーンを手に取る。

温かく湯気を立てるクリームシチューとパン。

カエデはボロボロと涙を零しながら、残さずに食べた。

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