11. 傾倒

カエデは、段々とモミジに依存する傾向が強くなっていった。

学校からの帰りは寄り道もせず、友達と待ち合わせなどすることもなく家へと直帰。

中学3年生に上がる頃には学校にも行きたがらなくなり、マンガや電気ポット、ラジオ、雑誌など、あらゆる物をバルコニーに持ち込んで、一日中そこで過ごすようになっていた。

そんなカエデを、母親は心配そうな眼差しで見つめていた。

いつまでも幽霊と一緒に居られるわけではない。自分も、いずれカエデよりも先に旅立たなければならない。


ある日、カエデを説き伏せて久しぶりに学校へ遣ることに成功した母親は、2人分のお茶を淹れてバルコニーに上がり、モミジに語りかけた。

長い間カエデの心の支えになってくれたことをとても感謝していること。

カエデの霊が見える体質は、自分譲りのものであること。

カエデも、あと何年かすると霊が見えなくなるであろうこと。

そうなった時のことを思うと、モミジにあまりにも依存している今のカエデは酷く危なっかしく思えること。

誰もいないバルコニーで一人、母親は娘への想いを訥々と打ち明けていく。


母親が語り終わる頃になると、辺りはオレンジ色の静寂に満たされていた。

向かいに置いたティーカップの、既に冷め切った紅茶が微かに揺らいだ。

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