9. 悪夢

誰もいないはずの廊下に、人の気配がする。ズルッ・・・ズル・・・と何かを引きずるような音。呻き声のような音もする。一つじゃない。聞き覚えのある音だった。

カエデは頭から布団をかぶり、膝を抱えるようにして身を強張らせる。小さく丸めた背中からどっと汗が噴き出した。

ガチャ・・・ギィ・・・・・・

ドアを開ける音。間違いなく、カエデがベッドで震えるこの部屋のドアだった。

「ああああアアァァァーー・・・!!!」

耳をつん裂くような、女の子の叫び声がした。

バンッ!バンバンバンッ・・・!!

窓ガラスを激しく叩く音。


その音で目を覚ました。

ベッドの上。ブランケットの端を固く握り締めながらガタガタと震えていた。

「・・・。」

目だけを動かして辺りの様子を窺う。

・・・静まり返った部屋。怖い気配は絶えているように思えた。

身体を起こして呼吸を整え、額の汗を張り付いた前髪ごと手のひらで拭う。

ベッドの傍に枕が落ちていた。拾おうとした背中に湿った冷たさを覚えて、ふるるっと身体を震わせる。

コンコン・・・。

窓から優しいノックの音。

目を遣ると、月明かりに照らされたモミジが泣きそうな顔で張り付いていた。

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