7. 積年
「モミジは、お友達とか居たの?」
ある晴れた日の昼下がり、カエデは話しかけた。
「そうだねー・・・」
少し遠くを見るようにして、モミジは話し始めた。
病気がちだった女の子のこと。いつも一人でバルコニー越しの景色を見ていた。
励ましの言葉は届くことなく、やがて都会の病院へ移って行った。
画家のおじさんのこと。風景画を多く描く人で、バルコニーから見る紅葉の山の絵が好きだった。他の絵はイマイチ(笑)。そんな感想を伝える術もなく、そのうち家賃が払えなくなって出て行った。
駆け出しのバイオリニストのこと。いつも聴衆は私ひとりだけ。毎日毎日、夜遅くまで一人きりで練習をしていた。どこか遠くの楽団で演奏することが決まったらしく、意気揚々と出掛けて行った。
未亡人と家政婦さんのこと。
結婚したての若夫婦のこと。
静かに暮らした老夫婦のこと。
・・・
バルコニーから眺める、果てしなく長い「思い出」が紡がれていく。会話もなく、ただ傍観するだけで過ぎ去っていく、モミジの思い出。
彼女が誰かと話をするのって、実はものすごく久し振りなのかも知れない。
夕日に照らされながら遠くを見る横顔を、カエデはじっと見つめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます