7. 積年

「モミジは、お友達とか居たの?」

ある晴れた日の昼下がり、カエデは話しかけた。

「そうだねー・・・」

少し遠くを見るようにして、モミジは話し始めた。


病気がちだった女の子のこと。いつも一人でバルコニー越しの景色を見ていた。

励ましの言葉は届くことなく、やがて都会の病院へ移って行った。


画家のおじさんのこと。風景画を多く描く人で、バルコニーから見る紅葉の山の絵が好きだった。他の絵はイマイチ(笑)。そんな感想を伝える術もなく、そのうち家賃が払えなくなって出て行った。


駆け出しのバイオリニストのこと。いつも聴衆は私ひとりだけ。毎日毎日、夜遅くまで一人きりで練習をしていた。どこか遠くの楽団で演奏することが決まったらしく、意気揚々と出掛けて行った。


未亡人と家政婦さんのこと。

結婚したての若夫婦のこと。

静かに暮らした老夫婦のこと。

・・・


バルコニーから眺める、果てしなく長い「思い出」が紡がれていく。会話もなく、ただ傍観するだけで過ぎ去っていく、モミジの思い出。

彼女が誰かと話をするのって、実はものすごく久し振りなのかも知れない。

夕日に照らされながら遠くを見る横顔を、カエデはじっと見つめる。

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