4. 出会い

カエデは、この家唯一の取り柄とも言えるバルコニーを見てみることにした。

壁沿いに90°曲がった階段を上がり、細長い廊下を進んで2番目の扉。そこが、バルコニーの部屋だった。

部屋に入ると、人気のなさが降り積もったかのような静寂が出迎えてくれた。

軽い耳鳴りのようなものを覚えながら部屋の中を見回してみる。


ガランとした部屋の突き当たりに大きな掃き出し窓があって、その向こうに「それ」は居た。

綺麗な後ろ姿。

柵に腰掛けて向こうを眺めつつ、ブラブラと足を遊ばせている。

下から見た時はあんな人居なかった。それに、何処か違和感がある・・・。

「?!」

影がなかった。

狼狽に揺れる身体を必死に抑えつけながら部屋を出て行こうとしたその時、「それ」は肩越しにこちらを振り返った。

そしてニッコリと微笑むと、後ろ手に身体を支えながら、小さくこちらに手を振った。

「!!」

カエデは慌ててドアを閉めた。


「どうしよう?!」と思った。

両親が引っ越しを決めたのは自分のためだ。その程度のことは、幼いカエデにだって分かっていた。引っ越してきたその日に「ここにもオバケがいる」とは、さすがに言いづらい。


そんなカエデの葛藤をよそに、バルコニーにオバケがいるとは夢にも思っていない母親は、見晴らしが良く明るいあの部屋をカエデに割り当てようと言い出した。

全力で辞退したい申し出だったけれど、その理由を説明できないカエデは曖昧な笑みで頷くしかなかった。


ベッドや机、本棚などが運び込まれ、今日からここがカエデの部屋になった。

バルコニーにはやはり居る、「あれ」。こっちを気にしているようだ。

カエデは気付かないフリをしながら、それとなく様子を窺ってみる。


・・・あまり悪い感じはしない。

少しホッとする。

少なくとも、以前のようにグロテスクな見た目でもないし、奇声を上げながら迫ってくることも無さそう。

女の人。制服みたいなのを着てる。

背はカエデよりもずいぶん高い。


・・・そこで不意に目が合ってしまった。油断していたカエデは硬直してしまう。

すると「それ」はちょっと困ったような笑顔を浮かべながら、またカエデに小さく手を振った。

観念したカエデは重たい掃き出し窓を開けて、おずおずとバルコニーに立つ。

古びた床板が「ギ・・・」と音を立てた。

「やあ。」

幽霊にしては意外な気さくさで、「それ」はカエデに声をかけてきた。まるで鈴を転がしたような、透き通った声で。

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