3. 家

引越し先の家は、元いた街から電車で1時間、そこから1日に4本しか無いバスに乗って小一時間ほどの所にあった。

裕福な人が避暑のための別荘として建てたものが、主が世を去ったことで人手に渡り、その後あちこち傷んで借り手がつかなくなって、不動産屋で塩漬けになっていた物件だ。

木造で、小ぢんまりとして小洒落た建物だったと思われるが、かつては鮮やかな色だったであろう屋根も、白かったらしい壁も、今では全体的にくすんで、見る者に図らずもこの世の無常を感じさせる佇まい。輪をかけて交通の便がこうも悪いとあっては、なるほどこれは借り手も付かないわけだと、妙に説得力だけはある物件だった。


唯一魅力的と言えるのは、二階に大きなバルコニーが据え付けられていたことくらい。

対面は視界が開けており、下を流れる川や遠くから迫る山々、その向こうに広がる大空が一望できる。

秋になれば山の緑は一斉に色づき、バルコニーからの眺めはさぞ素晴らしかろう。


不動産屋も、塩漬け物件に借り手がついた事がよほど嬉しかったのだろうか、掃除や修繕などの対応はかなり頑張ってくれた。

お陰で、見た目はボロいながらも人が住むには一通り当たり障りのない家に引っ越すことが出来た。

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