第12話 照り返す夏と小さな僕とキミと
夏は毎年恒例のように暑い日を更新している気がする。気の所為でしょうか?
今年は猛暑ではない。
酷暑だ。
それから、残暑も酷残暑だ。
勘弁していただきたい。
先週から、知り合いに勧められてあるドラマを見出した。実に良く出来たストーリーだと僕は思った。上目線のような言い回しで申し訳ないのですが、どうしても、そこは視聴者側になってしまうのだよ。許してくださいね。
切ないと腹立たしさを書かせたら、右に出る人が居ないのでは? とある作家さんの作品は昔からそう思う。
人の色恋沙汰も、人情味も。
僕には書けない。絶対に書けない。
流石だと思う。
最近の日本のドラマも映画も原作ありきの物が増えてから、僕はあまり観なくなった。
だからね、ドラマの為に書かれたモノには唆られるのである。
最終回まであと数話なんだと思うとホッとするようで、残念だな〜とも思うのです。
実は、ある漫画の最終回が勿体なくって読まないで保存してあったりするんですよね。
僕は、なんでも終わりは寂しいのである。
夏は暑くても、終わりはいつも少し寂しい。
グラスの氷がゆっくりと溶けていく。蟠った想いたちもゆっくりと溶けていく。
夏は暑く、気持ちを開放的にさせていく。
ホンマか、工〇?
せやかて、〇藤?
このような脱線事故を起こして、逃げたがるのも悪い癖。ええ加減、そのクセ治せ! はい。
「アレからさ〜 どうしてた?」
「……どうしてたって?」
「……怖いとか思わなかった?」
カレは、僕のストローでアイスコーヒーをかき回す軽い音に視線を落とした。僕はそれを気にして、手を止めた。
「怖いって何?」
「変な噂を流されたり……とか」
「へ?」
「え?」
突拍子もない言葉に今度は僕が豆鉄砲をくらった。と同時に吹き出して笑ってしまった。
「イナちゃんはそんなことを絶対にしないよ!」
「おや、信頼されているようで」
「今の今までそんなの思いもしなかったよ? ……ということは、僕の目には狂いはなかったってことでしょ? そこは褒めてよ?」
「褒められるのは俺でしょ?」
「それも、そうだねえ」
ふたりはまるで、高校生の頃に戻ったようだった。何も変わらず、何もわだかまりもなく。時間は、ついこの間のように思えた。
「イナちゃん……あの時は、ごめんね」
僕の言葉にカレはキョトンとするが、すぐに把握したのか、口許を緩くして柔らかく口角を上げる。瞳は優しく僕を見た。
「ううん。あの頃は子供だったからね、何も気の利いた言葉も言えなかった」
「そんな……」
「遅くなったけど、謝ってもいい?」
彼の言葉に僕は小さく頷く。
「あの時、驚いたのは本当だけどね、俺は嫌いになって離れたんじゃないよ? どうしていいか分からなかったんだ」
「うん」
「何を言ったところで、今更だけどね」
「うん……」
「あの頃、好きになったのが亮ちゃんで良かったって思っているよ。ごめんね……それから、ありがとう」
「ううん、僕もイナを好きになってよかった……ありがとう」
グラスの表面がうっすらと汗をかき、氷がゆっくりと溶け、からんと音を立てる。
「ねえ、告白が今って……どうなの?」
「本当だね」
あの頃の僕らは告白をした訳でもなく、付き合っていたのさえ、微妙で。プラトニックで、甘酸っぱい月日を過ごしていたんだ。
今となっては笑い話。
手を繋いだことも何もなかったけれど、素敵な想い出だと僕は思う。
僕とカレが、その後もカフェでくだらない話をし、顔を見合わせて笑い合った。
「それじゃ、また」
「うん、また」
夏の午後の横断歩道はゆらゆらと揺れる。
店を出て、僕らは逆方向に行くことになった。小さく手を振ってカレは駅に歩いていく。陽炎は、その後ろ姿を滲ませていく。僕は用事を思い出したように、緩やかな坂を登っていく。
僕らは夏になるとどちらともなく、連絡をとる。
それはね、まるで兄弟のようなやり取りで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます