第9話 逃げ出した午後
久しぶりのお休みはどう過ごせば良いのか、昔から苦手だったりします。
ゆっくりと過ごすつもりで飲み物や食べ物を買って、TSU〇AYAで観たかった映画を数本借りて来て、ソファーに座って再生ボタンを押し、期待してオープニング曲を聴きながらワクワクする。なのにも関わらず、とても充実した瞬間に僕はうたた寝をしだす。
次に気がついた時にはエンディングの曲が流れていて。なんてことが多かったりもする。決して、作品がつまらないとかではないですよ? 本当にね。あー気がつくと夕暮れ。夕飯は何にしようか……まあ、これも僕ってことで良き。
最初に言っておきます。
僕は耐えきれなくて逃げた。好きだから逃げたんだ。あの笑顔をもう歪ませたくなかったから。
「もうすぐ定期考査だね」
「だね〜ちゃんと勉強してる?」
「してるよ」
「だよね、進学クラスだもんね」
「そっちは?」
「最近ちょっと成績落ちてる」
「ダメじゃん」
「……うん、テストが終わるまで一緒に帰るのも行くのもやめない? 勉強に集中したいんだ」
言い訳だった。
綺麗事だね。
これ以上一緒に居ると、もっと好きになるって僕は分かってた。
「大袈裟だな〜 それなら一緒に勉強すればいいよ」
「そういうの逆に勉強出来ないタイプなんだよね……ごめん」
僕はその言葉を最後にカレと距離をおく。
テストが終わっても僕はカレのもとには行かなかった。
わざと電車の時間を変えたんだ。
尚にも翔にも雅ちゃんにも何も伝えないで、ひとりで電車でヘッドホンをつけて本を読みながら通った。
もちろん、学校では尚が仏頂面で僕の机の前で仁王立ちをして待っていた。
「亮! おまえどういうつもりだ?」
「……ごめん」
「ごめん……じゃ、分かんねえよ!」
そこに雅ちゃんと翔が廊下で心配そうな顔をしていたのが見えた。
「とにかく! 雅や翔にも言い訳しろよ!」
尚がここまで怒ったのを僕は初めて見た。
「亮ちゃん……俺らにも言い訳するの?」
翔がいつもの顔と違って雲った表情を見せていた。
「言い訳なんてしない……」
「……亮ちゃん」
僕の言葉が雅ちゃんをますます困った顔にさせた。
「アタシ達って、ともだちだよね? 亮ちゃん! なんでも言ってよ……言ってくれないのが、いちばんヤダよ」
「…………」
僕は言葉が出る前に大粒の涙が先にこぼれ出した。
苦しかった。とても苦しかった。
それは、雅ちゃんが僕よりも先に泣いていたからだ。
「ごめんね」の言葉は途切れ途切れで、上手く声にならなくて、声がなくなるかと思うほどに僕は泣いた。
「……なあ、何があった?」
尚が苛立ったまま顎を上げて目線を僕に落とす。冷たくて鋭くて、本当に怒っているのが理解できた。
「尚がそんなに怒ったら、亮ちゃん何も言えなくないか? 亮ちゃん、どうしたの? 何があったの? ゆっくりでいいから言ってみて、ちゃんと聞くから!」
翔がこういう時、もしかすると一番冷静で落ち着いているのかもしれない。
僕は三人に自分の言葉で話していく。何処かから借りてきたセリフではなく、自分の言葉で。
「……そういう事だったのか」
「……そりゃ言い難いよね」
「亮ちゃんはそれでいいの?」
「イナ(仮)の気持ちは?」
「……そうだよね」
「イナは多分色々と考えてると思うぞ……あいつ結構ナイーブだぞ」
「また、そういうことをサラっと言う」
「……いやいや、本気で言ってる」
「とにかく……イナと亮は、もっかい話せ」
「……うん」
翔から連絡を受けたカレは駅の改札で待ってくれていた。緊張からかいつものやわらかさはなく固い表情だった。
三番線のいちばん奥のベンチにふたりで座る。
切り出せ! 自分!
目をぎゅっと閉じて、声を出すと震えているのが自分でも分かった。
「……イナちゃん、ごめんね」
「どうして謝るの?」
「逃げたから……」
「テストの為でしょ?」
「…………」
「違うの?」
「……半分あってて、半分ハズレ」
「……言いたいことあるなら、ちゃんと言ってくれるかな?」
「ナイショにしてることがあるんだ」
「ナイショにしてること? 誰だってそういうのあるよ?」
「……イナちゃんに嫌われると思って言ってない」
「大袈裟だな〜 そういうのは言わなきゃ分かんないよ?」
「中身と外見が一致してないって言ったら……イナちゃんどうする?」
そこには、どんな答えがあるかなんて分からない。そんなの誰にも分からない。
分かっちゃうのは、陳腐な映画だけで充分! だと、いつか尚が笑って言ってたっけ?
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