7日目の乱

椎名檸檬

疾走と失踪

1.「7日目のdecision」

2.「デッドゾーン」

3.「変化」

4.「先導者」

5.「純物」








「7日目のdecision」


7日で神は世界を創造したらしい

たった7日だ…


今日で最後だ


あれ?

手段が目的化してきたのかもしれない



動機を確かめよう



目を瞑り

絶対に解けないようにと靴紐を結び

丁寧な一歩を踏み出しスタート

連日の疲れ

少し身体が重いように感じるが

ゴールを目指して進み続けるだけだ

足を一歩一歩運んで行く







「デッドゾーン」


…おっと もう 少し辛い時期に入った

あれ?少しじゃなさそうだ

ああ

崩れそうだ

肺から喉にかけ渇きと痛みが走ってくる

更に脚に微かな痛みと

熱を帯びた光が全身を焦がし

前進を止めようとする


でもイヤホンからきこえてくる

《ミュージック》が僕を支える






「変化」


…そろそろ10キロ地点に行ったか

さあこっから《ゴール》まで行けるか

耳元からeminemがきこえてくる

あと何マイル走ればいいんだろう

あれマイルって何キロだっけ?

まあいくらそんなことを知ったって

わからないことの方が増えてくのになあ

まあこっからは自分との戦い

ペースは維持し

呼吸を意識

今が正念場

ランナーズハイが僕を訪ねてくるまで

の辛抱だ

確証はなく

以前より拍動が増す

だが何かが

僕を動かす







「先導者」


…もうあれからどれだけたっただろうか

最初の方は1キロも1時間もあっという間だった

その先は殆ど諦めて止まりそうになりながら走っているし

1m, 1cmがとてつもなく長く感じるっていうのに

時計を見ると僕の感じた時間の半分くらいしか進んでない

心臓が拍動する度

僕の中の怯弱と豪胆がぶつかり

呼吸も精神も安定しない


だが何かが僕を導いているのか

脚は進んでいく意志を見せる







「純物」



…ふと気がつくと全身が重くなったのを感じる

あーもうそろそろ限界かもなあ

あーもう全てがしんどい

地獄ってこのことだよなあ

これが死ぬより楽なのか?

死んだ奴らはどう思うんだよ?

答えられるはずもないか

足の疲れは増し

全身が悲鳴をあげてる

最初っからちゃんと考えず走って来たからなあ

ああ

リセットしてもう一回最初っからやり直したい

いや

やっぱりもうこんなしんどいのは勘弁だ

自分に発破をかけ

止まりそうになる足を叩き

どうにか足を前へ前へ出して行く

それでも何回やっても何も変わらず いわゆる焼け石に水

このままじゃ画餅に帰す


気づけばもう

足は止まっていた

膝に手をつき

地面を見ると

そこには水たまりがあった

その水面には僕を追い越して行くランナー達が映し出され

僕の姿はそこにはなかった

ハッとして水たまりから目を離せば 自分がどこにいるのかわからなくなっていると気づいた

《スタート》も《ゴール》も見えなくなった

呼吸は安定してきたが

以前よりも《地獄》が近いように感じる



そこに立ち尽くしていると

眼に穴が空き

風が吹き抜けていく

目の前はぼやけているだけだ


だが


その時 微かに聞こえた


僕の心が





気づけば僕は











靴紐をもう一度結び直していた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7日目の乱 椎名檸檬 @bubunoa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ