『羽村さんと怪異の話』中編

 宮澤みやざわ美郷みさとと名乗る青年から「オカルト専門の公務員です」と自己紹介された時は、流石に戸惑った。が、かくいう自分こそ非科学的の塊なのだからと、疑念は抱かなかった。

「オカルトと無縁な一般の人に、おれの仕事を説明すると、大体は微妙な顔をされるんですけど。羽村はむらさん、なんだか平然と受け入れてませんか……?」

 まあ、その物分りの良さを逆に訝しがられてしまったが。

 シロタサン、もとい白太しろたさんと触れずに会話できるのも珍しいことらしい。要するに俺は動物とではなく、別の何かとずっと話していたことになるわけか。

 本音を言うというと宮澤さんが俺と同じ力を持つ人なんじゃないかと期待した。しかし違うらしいと気づいたので、俺の妙な力については秘密にする。既にややこしさは混沌の領域に入っているのに、必要のない情報まで共有する必要はないだろう。

 ……ごめんなさい、嘘をつきました。

 本当の理由を白状すると、万が一「悪霊が取り憑いているから羽村さんは動物の声が聞こえるんでしょうね」と診断されてしまったら、流石にビビるからです。

 あげく、その流れでお祓いでもされて、もし普通の人に戻っちゃったら不都合の方が多くなるわけだし。

「しかしまあ、確かに珍しい色してるけど、見た目だけなら普通の蛇にしか見えないな。世の中わからないもんだ」

 と口を滑らせると、白太さんは気を悪くしたのか、宮澤さんの身体に巻き付いたまま、一回り巨大化して見せた。飼い主さんが顔色を変えて震え始めたので、すぐ白太さんを宥めた。

「……それではお手数ですが、これまでの経緯や状況をできるだけ説明して頂けないでしょうか?」

 宮澤さんからの質問に、俺はできるだけ素直に答える。いくら歩いても次の道が見えない山道、動物の気配に乏しい空間、そんな中でふいに顔を出した金色の蛇など。思いつく限りのことをあげたが、わざわざ山道を通った目的だけは秘匿した。

 別に電車賃を浮かすためでも運動のためでも、そんな変わらないだろうし。たぶん、おそらく、きっと……。

「これって所謂、神隠しって奴ですかね?」

「断定はできませんが、似たような現象であることには間違いありません。このままではおれも羽村さんも帰れません。これから原因を探ります。怪異の根源を把握してから対応しないと、余計なものを刺激しかねないので。ただ……」

 と、宮澤さんは今日の宮澤さんは非番で、夢の中で白太さんに呼ばれたから急いでここに駆けつけた状態らしい。不測の事態への備えはあるが、急いでいたこともあり、万全とは言い難いとのことだ。

「おれの来た道は、振り返ったら消えていました。だから応援を呼ぼうにも難しい状況に……いや、携帯は繋がる?」

 なるほど、道が消えていたのか。大の大人が揃って絶望的な方向音痴だった、という寂しいオチじゃないようでホッとした。

「あ、おれの相棒……うちの大家と連絡がとれそうです。電波状況が不安定だけど、なんとか届けば……」

 ちなみにその大家というのは、オカルト的な意味で同業者さんだそうだ。ただし宮澤さんと違って公務員ではなくて、あくまで個人営業の拝み屋さんなのだとか。

 しかも大家さんは役所から業務委託されていると聞いて、俺は昔暇潰しに電気屋のテレビで見た緩いサスペンスを思い出した。町の情報屋や事情通と時には仲良くし、時には脅して利用し、犯人を追い詰めるちょっと痛快な物語だった。

 しかし個人営業の拝み屋、どうもパッとイメージができない。役所に認められるということは、白装束を着て、意味のわからない言葉を口走る歩く輩……とは遠いはずだ。

「連絡取れました。情報収集を手伝ってくれると言ってくれています」

 筋の光明が見えた、ということが表情からわかった。尚の事、ろくでもないイメージを持っていたことは隠し通す必要があるだろう。

 ただ、そんなイメージしかなかったせいで、俺には一つ気がかりがあった。

「でも、個人営業ってことは、やっぱり依頼料とか情報費とか、お高くつきそうだけど、大丈夫かな」

 年中木枯らしが吹く財布を、俺は苦笑いしながらポケット越しに撫でる。よくよく考えたら、それ以前に広島からどう帰ったらいいか、俺はいずれ向き合う問題から目を背けているわけだが。

 なんて自嘲しながら視線を戻すとさっきまで笑顔を見せていた宮澤さんが、少しだけ青い顔をしたのに気づいた。

「……そもそも協力を要請したのはおれですから、請求については一切ご心配なさらず」

 と言いながら、宮澤さんの視線が別の所を向いたのに俺は気づいた。財布を気にする彼を見るに、大家に泣かされるのはどこも同じようだ。

 ただ今は、原因を作った者として少しばかり胸が痛い。




 *****




 怪異に巻き込まれた被害者……羽村と名乗る男は、所々怪しさが目立つ人物である。それが宮澤美郷の正直な印象だ。

 携帯電話を持っていない、白太さんと接触せずとも言葉を交わす、度胸があるのか無神経なのか、比較的落ち着いた態度。少なくとも変わり者なことには違いない。

 こういう場合、被害者はまず自身の安全を保証することを願うのが普通だ。最悪の場合、パニックを起こして詰め寄られても不思議ではない。しかしこの羽村の諦めにも似た落ち着き方は、何か裏があるかもと疑いたくなってしまう。

 しかし腹に一物を抱えた同業者にしては知識不足が顕著だし、さりとて人を装った人ならざる存在、という様子もない。要するに判断材料に乏しいため、ひとまずは相棒の狩野かりの怜路りょうじに頼んだ調査の結果待ちとなった。

 ちなみに通話を試みたが、電波が不安定なため声が聞こえず、SNSのメッセージアプリでやりとりすることにした。丁度いいことに、羽村は携帯の類を持っていないし。

 下手に信用して背中を預けたくなかった美郷は、こっそり白太さんに背後の監視を頼んだ。何かあれば白太さんが真っ先に対応してくれるはずだが、羽村から敵意が漂ってくることはなかった。

 むしろ気配すら感じなくなる時があり、美郷がしばしば後ろを振り返ると、その都度白太さんから「大丈夫」と声をかけられるようなやりとりが何度か続いた。

 しばらくすると、ようやく怜路からのまとまった返事が来た。

 まず、羽村の名刺にあった害獣駆除事務所が実在することが確認できたという。写真付き地図を閲覧できるサイトで外観までも調べてくれたとのことで、一応名刺の情報が偽りでないことはわかった。

 次に、遠く離れた所に居たはずの人間が、何故広島に突然現れたのか、というところも、一つ仮説が立てられる情報が得られたとも書いてある。仕事の中で培われただろうその情報収集力が、今は本当に頼もしい。

 簡単に言うと、双方の山道で語り継がれてきた伝承が類似していることが関係しているのではないか、ということだった。そして面白いことに、山中にある社で祀られている神様にも、共通項があることがわかった。

「蛇の、神様?」

 メッセージアプリで送られてきたそれを見て、羽村が言っていた金色の蛇のことを思い出す。白太さんも同じく目撃していたようで、その蛇の気配を辿れると訴えていることから、美郷はそれを信じて先導を任せることにした。

 連絡をある程度取り終えたところで、いよいよ電波が繋がらなくなってきた。そのことをアプリで伝えると、怜路はこれから自分も現地に向かって救援すると言ってくれた。それを最後に、携帯は完全に圏外表示となってしまった。

「頂上にある社を目指します。やだ、頂上がどうなっているかは目視での確認が難しく未知数ですので、慎重に行きましょう」

「そ、そうですか。えーっと、俺も行かないとダメな感じですかね?」

「今ここで分散するのは危険だと思います。こうして合流できたのも白太さんのおかげですし、この空間自体普通のものではありませんから、また羽村さんが迷ってしまう可能性が」

「そうですか、なら置いて行かれないようにします……前に似たやりとりをコイツとしたような気がするな」

 コイツ、と急に言われて美郷は面食らったが、よく見ると目線は胸ポケットに向いていた。かつてそのハムスターとどんなやりとりがあったかはわからないが、今は詮索している時間はない。

 はぐれないように、と念押ししてから、白太さんを先頭に美郷と羽村は頂上へ向けて出発した。




 霧でいよいよ先が見えなくなってきた頃、美郷はへとへとになってしまっていた。別に登山で体力を奪われたのが原因ではない。

 諸悪の根源は、目の前で手を合わせて許しを請おうとしているこの羽村という男にあった。

「……本当にわざとじゃないんですよね?」

「モチのロン! これまでのことは全部、なんつーか、不可抗力です!」

「お言葉ですが、おれの見る限り、全て羽村さんの不注意が原因かと」

 さしもの美郷も公務員としての対応の限界を越えようとしていた。




 始まりは、道中にあった石を蹴り飛ばして崖下に落としてしまったことだった。すると下方から鈍い音がして、同時にそこから黒いモヤのようなものが浮き上がってきた。モヤは太い腕のようなものを伸ばし、全身で怒りを表現しているようだった。

 当然美郷は対応を強いられた。白太さんに頼ればもう少し簡単に済んだはずだが、頂上を気にして先行していたため、すぐ気づいてくれなかった。

 騒ぎが落ち着き、羽村の無事を確認したことでそこはひとまず収まった。だが、美郷に降り掛かった不幸はそれだけに留まらなかった。



 少し開けた所に出てから、羽村が突然大きく息を吐いた。かなりお疲れなようで、頭をあげるのもしんどそうだ。

「すいませんね、ちょっと休憩いいっすか」

 と、人に尋ねておきながら、既に羽村は休む気満々で、地面に腰を下ろそうとした。しかし、力みそこねたか、羽村はそのままよろけて後ろに向けて蹴躓いてしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

「も、問題ないですよこれくらい。普段ならもっと酷い目になっているわけですし、ねぇ?」

 と、羽村が誰かに同意を求めた。誰に話しているんだろうと思ってよく見ると、羽村が何か大きな丸い毛玉に包まれていることに気づく。

 羽村がうっかり声をかけてしまったそれから離れると、毛玉はこちらに振り返り、大きな目玉を見開いた。そして、目を血走らせながら、こちらに血管のような触手を伸ばして襲いかかってきた。

「く、クマよりもヤバいヤツだー!」

 顔を青くする羽村を後ろに下がらせ、美郷は直ちに対処した。相手はクマのような体毛に反して打たれ弱かったようで、ある程度反撃すると涙目になってどこかへと行ってしまった。

 今回も例によって白太さんは先行していたが、刺激しなければ無害な輩だったこともあり、「ごっくん」せずに済んでむしろ良かったかもしれない。

 相手を深追いする必要がないことを確認してから、美郷は恨めしそうに羽村の顔を見た。

「そ、そんな目で見ないで欲しいなー、なんて。いや、ちょっとよろけたら変なのが居て。あんなのに腰掛けたい奴なんていませんよ、はは」

「本当に気をつけてください! これまではなんとか無事に済みましたが、今は下手したら命に関わるような事態なんです!」

 美郷は、自分の苛立ちが隠せなくなっていることに気づいて、一度大きく深呼吸をした。そして、この人に悪気はないはずだ、と頭の中で今一度復唱する。何か裏のある人だ、という羽村への印象はいつの間にか吹っ飛んでしまった。

 この羽村という男、積極的に不幸を自ら引き寄せているようにしか見えない。美郷も不運を呼び寄せることはよくあるが、この男はそれをさらに悪化させたかのように見える。

「申し訳ない、もうこれ以上、宮澤さんに余計なお手間を取らせないようにックション!」

 という大きなクシャミとともに、何かが剥がれた音が聞こえた。羽村はその勢いで、傍らにあった木の肌を引っ掻くようになっていたが、まさか……。

 美郷が慌てて羽村の手に引っ付いたものを確認すると、それは明らかに何かを封印していた御札とわかる紙切れだった。顔を青くする美郷に、羽村は緊張感のない声で問いかける。

「えーっと、俺の考えすぎだと良いなーって思うんですけど。今俺、何かヤバいもの引っ剥がしました? いや、大丈夫ですよね? どうせ水道屋の宣伝チラシとかそういう奴で……」

 その答えは、美郷が答えるまでもなかった。羽村の引っ掻いた木から、大きな尺取り虫が生えてくるように伸びてきていたからだ。敵対者がこちらに牙を剥き出しにしているのを見て、美郷は文句を吐き散らしたい気持ちを必死に押し留めた。




 駆けつけた白太さんのささやかな協力もあり、なんとか得体のしれない魔物は一通り片付ることができた。しかし、まだ終わっていないことがある。

 美郷は、感情の薄い顔で羽村の顔を見た。彼は顔中脂汗を滲ませ、直立不動で公務員からの沙汰を待っていた。

 とても殊勝な態度だなと思った美郷は、口元だけ少し笑顔を見せたかと思うと、傍らに寄ってきた白太さんに尋ねた。

「白太さん、そろそろお腹空かない?」

「なんで俺の顔見ながらそれ聞いてるんすか!」

 それを聞いた白太さんは、羽村の目前にまで頭を寄せて、あからさまに傾げてみせる。

 ――おかし?

「可愛く言い直してもダメ!」

 必死に突っ込む羽村にもフォローせず、美郷はただ穏やかに笑うだけだった。それにゾッとした羽村は、すっかりしおらしくなっていった。




 *****




 なんとか白太さんの夕飯になることを避けられた俺は、進むごとに霧が濃くなる山道を上っていった。

 社があると言われた頂上前の道からは、大きな木造の建物が霧越しに見えた。神仏に纏わるものだけあって立派な佇まいだが、霧のせいか所々不気味に見えてしまう。

 しかし、隣に居る宮澤さんの顔には明らかな動揺が見えた。

「こんな大きな建物じゃなかったはず。新しく作られたにしては、年季が入り過ぎている」

 言われてみれば、建物は遠目からでも大分傷んでいるのがわかる。これだけはっきりとした経年劣化が明確なら、築年数は一〇年二〇年の世界じゃない。

 宮澤さんは大家さんと連絡を取ろうとしたが、既に電波は圏外となっているとのことだった。謎の建造物を前に、どういう手を打つか決めあぐねている宮澤さんを眺めながら、俺も一応考えるポーズだけは取ってみる。

「あ、コイツ、さっき見た金色の蛇」

 無駄なポーズを決めた俺の足元で、見覚えのある蛇がこちらを見上げていた。急な来襲に宮澤さんと俺は身構えたが、白太さんだけは相手に身体のサイズを合わせ、向き合うような形となった。

 二匹は、じっと見つめ合ったり、時折頷きあったりしていたがが、やがて金色の蛇が踵を返して行ってしまった。交渉決裂かと思ったら、白太さんはすぐに事情を説明してくれた。

 ――キン、困ってる。白太さん、力になれない。

「力になれないって、どうして?」

 ――白太さん、ギンの縄張り、入れない。

「ギンの、縄張り……?」

 宮澤さんが言葉の意味を必死に理解しようとする前に、白太さんは首を頂上の建物に向けた。

 どの道、この件を片付けるためにはあの建物にある問題をどうにかしないといけない、ということだけは確実となったので、俺達は素直に後を付いていくことにした。

「ギン、って何っすかね?」

「今の段階ではなんとも。素直に白太さんの言葉を受け取るなら、金の蛇がいるなら銀もいるということでしょう。いずれにせよ、まだはっきりとしていないこともあります。ここかより先は一層、注意していきましょう」

 最後の「注意しろ」という一言に、念押しのような語気を感じた。金と銀と聞いて「これで湖があったら女神様が呼べる」なんて口走りそうになったが、やめておいて正解だった。

 キンに導かれて頂上に到着すると、想像以上にデカイ建物が俺達を待ち受けていた。足元の霧が深いせいか、まるで浮いているようにも見えた。

 俺の目には、ただ古ぼけた神社にしか見えない。しかし、不気味な気配だけは嫌というほど伝わってくる。

 俺がなんとか話の流れに付いていこうとする中、ふいに白太さんが割って入ってきた。

 ──ギン、寂しい。みんな、巻き込んだ。

 と言いながら、白太さんは周囲を見渡すようにこちらを振り返る。目を凝らすと、周囲は色とりどりの化け物がこっちを覗いているのが薄っすらと見えた。

「なるほど、そのギンって奴は、相当あちこちに迷惑をかけてるみたい、なわけか」

「どうしよう、この状況下で羽村さんを一人残していくのは流石に危険だよな。白太さんは居残り確定だけど、おれが居ないと制御が……」

「今の一言で周りの化け物より白太さんが怖くなっちゃったな、俺」

 と言いながら、俺は身体を縮こませた。霧が濃くなってくると同時に、気温も徐々に下がっていっている気がする。

「怜路の援護を待ちたいけれど、この寒さだとあまり時間もないみたいですし、なるだけ早く対処してきますので、無理を承知で羽村さんにはここに残って頂きます」

「はい……まあ、俺が行っても絶対何かできることがあるわけじゃないし。今はただ信じますわ」

 明らかに自分より若い青年に全てを託す、ということに情けなさを感じないわけではないが、餅は餅屋、門外漢はただ黙って皆の無事を祈るだけだ。

 ──みさと、がんばれ。

 白蛇くんなりの応援に、宮澤さんは笑顔で頷き返した。俺に見せた笑顔よりも柔らかいそれは、彼の素顔に近いものなのかもしれない。

 扉に向かう宮澤さんを見送っていた俺は、ふと肩に変な気配を感じて、振り返った。

 背後には、どう表現したらいいかわからない魑魅魍魎達が、俺の背中越しに宮澤さんをじっと観察していた。

 流石に驚いた俺が飛び退くと、丁度足元にあった白太さんの尾に蹴躓いた。よろめいた先には、丁度扉を開けたばかりの宮澤さんが居た。

「え?」

「あっ」

 そのまま俺が寄りかかったことで、宮澤さんを建物内に押し込む形となってしまった。一緒に侵入してしまった俺はすぐに戻ろうと踵を返すが。

「あ、待って、閉めないでおくれよ!」

 そんな俺の願い虚しく、建物の扉は当然のように閉まってしまった。力づくで開け放とうとしたが、押しても蹴ってもびくともしない。

「ちょっと、何やって……なんで付いてきたんですか!」

 押し込まれる形になった宮澤さんが、今までにないくらいこちらをキツく睨んで怒鳴った。

「いや、アイツラが人を脅かすもんだから、ついうっかり」

「うっかりじゃ済まないですよ! ただでさえここから何が起こるかわからないのに! 安全を保障できないから言ったのに!」

「だから不可抗力だってば! まさか俺の足元に白太さんの尻尾があるなんて思わなかったし! つか霧で足元あんま見えなかったし!」

 我ながら子供でもしないような言い訳の仕方に、宮澤さんも頭が追いつかなくなっているのか、さらにヒートアップした。

「そもそもピタゴラ装置みたいなことになること自体がおかしい! やっぱ、意図的におれを困らせようとしてませんか! 準備足りてないって言ったはずなんですけど!」

「そんな命懸けでイタズラする度胸も余裕もない!」

 年下にガミガミと叱られて必死に弁明する己の姿を情けなく感じ始めた頃。

 ──アハハハハ、イイゾ、イイゾ! 楽シイゾ!

 ふと第三者の声が聞こえてきて、俺は声の出処を探ろうと黙った。宮澤さんもそれに気づいて、怒りを鎮めて耳を傾ける。

 急に静かになると、今度はその声の主が声を荒げ始めた。

 ──オイ、黙ルナ、騒ゲ! 宴ノヨウニ、モットモット騒ゲ!

 不貞腐れた子供のような口調だなと思った矢先、部屋の奥から沸き出てきたかのように人の影が現れた。

 そして、照明の見当たらない建物の中において、青白い光がポッと浮かび上がり、声の主を照らし出した。

 ──ヨウヤク、楽シイ輩ガ来タナ。宴ジャ宴ジャ!

 ギラギラした銀髪を持つ幼い少女が無邪気に跳ねる姿に、俺は宮澤さんに説明を求めるように首を傾げた。が、俺より詳しそうな彼ですらも、困った顔で微笑むだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る