第4話 打倒不可能モンスターって結構序盤に出るよね
物語によっては序盤にラスボス染みた強敵が現れて主人公勢を無双し、主人公から明確な敵認定をされるモンスターとかがいる。
そして物語がすすむ過程で実はそいつよりヤバい存在がうしろで糸を引いていることが判明し、真のラスボスはそいつの方でした、的な展開が待ち受けているのはお約束だ。
こういう存在がインフレを加速させる原因だったりする。
だが、今俺がいるのは紛れもない現実世界だ。
ゲームでありそうな「お主なかなか面白い男だな。今狩るには惜しい命。ここは見逃してやるから、強くなったらもう一度我輩の下へ挑みに来るがいい。ガハハハハッ!!」なんてご都合主義展開なんて存在しない。
目の前に弱い生物がいたら、そいつはどんな才能の可能性があろうと“餌”でしかなく、虐げる対象でしかないのだ。
つまり、ここからどう動くべきかと言うとだな……
「やっぱ逃げるしかないでしょっ!?」
三十六計逃げるに如かず。見た感じヤバそうな雰囲気しか漂わせてなかったから、脱兎の如くその場から逃げ出した。
意地? プライド? 誇り? そんなものは俺を見逃してもらうために、あのモンスターに食わせる供物にでもなっていればいいんだよ!
ほれ、ワンコロ! 餌だぞ、しっかり味わって食べろよ!! ……あそ~れ。
「グルルルゥ……グルァアアアッ!!!」
「あ~、やっぱダメですかそうですか」
食わず嫌いとかお前結構グルメだな。
野郎ぉ、野生の獣のくせに結構いいもの食ってるらしい。極上のステーキとか、少なくともたらふく腹が膨れるようなガッツリ系が好みのようだ。
俺のプライドや誇りじゃあ腹が膨れないって言うのかっ!?
……あ、よく考えてみれば当たり前か
「グガァアアアアッ!!!」
「おー、おー。大層お怒りなこって」
ホント、どーすっかなぁ……この状況。
木々がかなりの密度で生えている方向に意図的に走ってはいるけど、後ろの狼からしてみればそこらの雑草と大差ないようだ。樹齢何百年級の大木がポッキーをへし折るくらいの感覚であっけなく左右に吹っ飛んでいく。
だが忘れてはいけない。ここには俺以外の存在もいるのだ。
チラッと左側を確認。見れば、狼の攻撃が届かなそうな木の枝を足場にしてエルフどもが忍者よろしく大跳躍を敢行していた。
アレ、一度憧れてやってみたんだけど10回ぐらいやったら太腿が悲鳴をあげ出すんだよなぁ……。あれは初めての挫折だったから、子供ながらに結構しょげてた覚えがある。
視線を向けていると、ふと、その内のリーダー格の男と目が合った。
俺を最初に襲ったあのエルフだが、今は後ろの黒い狼という双方にとって共通な強大な敵が存在している。見た感じ向こうもあの狼を忌まわし気に見ている様子だったし、俺の考えは間違っていることはないだろう。
俺たちの間に絆なんて大層なモノはない。だが、ここで俺たちが思うことは同じなはずだ。昨日の敵は今日の友、さっきの敵は今の友だ。
俺たちの視線が交錯する。
そう、やっぱりだ。俺たちは同じ目をしている。やはり俺とお前は心の通った友だったんだ。俺たちは、ソウルフレンドだったんだ!
今、俺の思いをお前に届けよう……っ!
———お前が囮になれ
———お前が囮になれ
やっぱり俺とお前は
……チッ、考えることはやっぱり同じかぁ。
となると、問題は如何にしてあいつらを地面に落とすかだな。う~む……やっぱり手っ取り早く足場である木を蹴って落とそうかなぁっと!?
「テメェら、ホントに容赦ねぇな!?」
それも悪辣に俺の足元を狙って矢を撃ってやがる。
両足撃ち抜いて俺を芋虫のように這いずり回したいっていう思惑が透けて見えるぜ。その間、やつらは高みの見物と洒落こんで俺の
おい、何処のどいつだよ、エルフが清らかで温厚な性格してるって言ったやつ。俺には道化の仮面みたいにニタニタ嗤ってる悪魔のように見えるぞ。
「俺は確かに伝えたぜぇ……お前が囮になれってなァ!!」
俺の顔面目掛けて飛んできた矢をむんずと掴み取り、そっくりそのまま投げ返す。
それが意外だったのか、連中が驚いたような顔をした。
ふっふー、残念だったな。こちとらあの人外爺さんの下で何年も鍛えられてるんだ。投擲術もちゃんと修めてるわ。
「投げるものがあるなら、撃ち落とせばいいんだよなァ!!」
爺さんから叩き込まれた自分の身体の最適な動き方に倣って最速を以て飛んできた矢を投げ返す。その速度はもはや残像すら見えるほどだ。しかし依然としてその速さで投げ合いと撃ち合いを繰り広げているんだが……意外にしぶといな。
矢を撃ちながら飛んできた矢を躱すとか本当に曲芸染みている。森の狩人なんて呼ばれているのも伊達ではないということか……。
っていうか後ろの狼さんよ、相手にされてなくて若干寂しそうにしてる暇あったら向こう襲ってくれよ。お前の大好きなボリュームのある食事があるぞ?
「グルルラァウッ!!!」
「お前どんだけ俺に執着持ってるの!? ふっざけんなよ、殺し愛だとかヤンデレは二次元で十分だっつぅの!! 三次元に出てくるなよ!?」
嫌だ嫌だみたいに駄々こねてるんじゃねぇよ。こっちは生きるか死ぬかの死活問題だぞ!
今の俺の状況を端的に言うなら、『上半身を捻って横から飛んでくる矢の軍勢をオウム返ししながら前を見ずに前方の木を避けつつ後ろの狼から全力逃走』と言ったところか。
……あれ、やってること字面にすると割ととんでもないことしてるな俺……。
「おっと、森もの出口か?」
どれくらい走り続けたかもう覚えてないが、森の先が大分明るくなってきた。
この調子なら横から矢を撃ってきているエルフどもはもう来ないだろう。エルフが白兵戦を得意としているなんて聞いたことがない。更地というアウェイなホームで戦うことはしないはずだ。
つまり、これで俺の負担は減ったも同然なのだ!
……
「よっしゃぁ!! 取りあえず今は後ろの狼だけ気にしてれば良いってことだよなァ!!」
俺は最後の一踏みをより一層力強くし、その日向に向かって勢いよくフライアウェイした
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……
フライアウェイ?
「え、あれぇ? ここってもしかして……」
一歩踏み出す。しかしそこに足場はなく、虚しく足が揺れただけだった。
冷や汗がドバドバ溢れ出る。
ギギギギ、と壊れたブリキ人形のように、俺は恐る恐る目線を下へ向けた。
見慣れた地面は、100m先。その手前は、からっ風が吹く空白地帯。
それらが意味することは———
「ここ崖かよおおおおおおぉぉぉぉ!!!??」
遅れてやってきた重力に腕を引かれ、身体が自由落下する。
間延びした絶叫が森の中に虚しく響き渡り、俺は本日二度目の落下を経験した。
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