第2話

「おっそーい。何してたのさー」

 病室に戻るとなぜか妹から文句を言われた。

「何ってお前が何言ってんの?」

 俺は借りてきた本を妹の頭にコツンと軽くぶつけて渡した。

「いて。おっ! 薄いじゃん! これどんなお話なの?」

 手に取った本に一応興味を抱いてくれたようだ。

「んー簡単に言うと、実在する片道15分の電車を通して他人同士が互いに影響し合う話かなー。恋愛要素もあるしかなり読みやすいと思うんだよなー」

「おーいいねー。何より薄いのがいい!」

 そこかよ。

「読み出すとな、止まらなくなってもう終わりなのって絶対思うからな」

「えーホントかなー」

 懐疑的な妹だが読めばすぐにわかるはずだ。



 俺だって最初から本が読めた訳じゃない。

 元々活字は苦手だった。それでも、本の世界に浸れる1冊に俺は出会った。

 


 活字が読めない人は、まだその1冊に出会えてないだけだと俺は思っている。



 そんなことを考えていると妹に水を刺された。


「そういえばお兄ちゃんって彼女いるの?」

「・・・・・・いない」

「彼女いない歴=年齢かお主!」

 お主ってなに言ってんだこいつ。

「いや、高校の時にはいたけど・・・・・・」


 その途端、いくつもの情景が頭に浮かんでは消えていく。


 あー思い出したくないこと思い出しちゃったよ。

「けど何さ?」

 興味津々かこいつ。

「なんでもいいだろー。今日は帰るわ」

「あっちょっとお兄ちゃん!」

 俺は逃げるように病室を後にした。



 追って来ることはないだろうと頭ではわかっていたのに、とにかくその場から離れたくて足取りは早くなっていた。

 よみがえる記憶に呼吸まで乱れていく。


「あいたッ!?」


 エレベーターまでの曲がり角で俺は誰かとぶつかってしまった。

 謝らないと・・・・・・ダメだ息が乱れてうまく話せない。

「あの・・・・・・ふぅ・・・・・・す、すみません」

 なんとか言葉を絞り出す。


「大丈夫ですか? 顔真っ白ですよ?」


 温かな声音に導かれるように顔を上げたとき、俺は2度目の恋に落ちた。

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