第2章 勇気の物語
第1話
もうすぐ16歳になる俺の妹が、先週から盲腸で入院している。
母から聞いた話だとあと1週間程度で退院できるそうだ。
「へぇー。結構でかいな」
病院に来るのは初めてだったのでその建物の大きさに素直に驚いた。
病室に着き扉をノックすると妹の声が俺を招く。
「どーぞー」
中に入ると妹はスマホをいじっているようだった。
「なんだ。元気そうじゃん。来て損した」
「あ痛たたたた。なんか急に痛くなってきた。お兄ちゃん助けて」
「下手くそか」
うちの妹は見ての通りアホなのである。
暇さえあればスマホをいじって時間を浪費している。このおバカさんを更正するには入院生活は、またとないチャンスだろう。
「なぁ、折角の機会なんだから本でも読めよ。お前普段漫画しか読んでないだろ?」
スマホに釘付けだった目がこちらをチラリと見る。
「小説ねー。じゃあお兄ちゃんなんか借りてきてよ。ロビーに本の貸し出しコーナーあるからさー」
へーそんなのあるんだ。
気だるそうにスマホをいじる妹は退屈そうだ。ここは兄として至高の一冊を選ばなくてはならないだろう。
「わかったー。じゃあちょっとこれでも食べて待ってな」
俺は近くのコンビニで買ったお土産を渡した。
「わかってんねーお兄ちゃん♪ プーリーンープーリーンー♪」
上機嫌になった妹を残して俺はロビーへと向かった。
大きなロビーは沢山の人で溢れ、様々な音が反響し絶え間なく雑音が耳をくすぐる。
「あれだな」
見回すとすぐに貸し出しコーナーを見つけることができた。
「なかなか新しいのもあるんだな……」
読書嫌いの女子に読ませるなら有川浩先生の薄めのやつがいいかな。
植物図鑑……いや、阪急電車にするか。あいつには【人生の機微】ってやつを知ってもらった方がいいだろうな。
ついでに俺もなんか借りていくか。
「ん? これって……」
本棚の上に1冊のノートがあるのを見つけた。
作者名はなく【一人で生きることは、死ぬよりも辛い】とタイトルだけが記されていた。
開いてみると小さな丸文字が並んでいた。
「手書き? なんだこれ?」
日記かと思ったが中身はちゃんとしたストーリーを紡いでいた。
初めて書いたのだろうか?
文章からは拙いながらもちゃんと書こう、伝えようという想いが強く伝わってきた。
まだ最後まで読んではいないが、この本は他のどの本とも違う。
今まで読んだどんな本よりも響くものがあった。
目頭が熱くなるのを感じ、慌ててノートを閉じた。
人前で涙を流すわけにはいかないという羞恥心からノートを元の場所に戻そうと思ったがその手を止めた。どうしても続きが気になったのでこのノートを借りることにした。
俺は阪急電車と謎のノートを持って受付へ向かった。
「あーごめんなさい。このノート貸出はできないんです。申し訳ありません」
受付のお姉さんは申し訳なさそうに謝ってきた。
「あ、いえ大丈夫です。また来たときに読みに来ます。ちなみにこのノートは誰が書いたんですか?」
俺の質問を、お姉さんは近くにいた人にも聞いて回ってくれた。
「すみません。私どもでは分かりかねます。少し待ってもらえばこの貸し出しコーナーの管理者に聞くこともできますよ? そうすればわかるかもしれません」
そうなのか……
「いえ、大丈夫です。少し気になっただけなので。ありがとうございます。じゃあこっちだけ借りさせてもらいます」
「そうですか。貸出は2週間になりますのでよろしくお願いします」
2週間あれば流石に読めるよな……いや、怪しいか……
ノートを元の場所に戻し、借りた本を持って妹の病室へと戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます