第22話
彼女が瞳を閉じたとき、僕は一度彼女の要求を飲もうとした。
それでも直前で、僕は考えを変えた。
今、彼女は弱っている。
キスを求めたのは一時の気の迷いかもしれない。
そこにつけこんで自分の欲求を満たそうとした自分に嫌気がさした。
いつから僕はこんな風になってしまったのだろうか……
僕はそれほど女性に興味がなかった。そもそも他人に関心がなかったのだから当たり前だ。
そんな僕が、心を動かされた初めての人。
認めざるを得ない。それほどまでに目の前の彼女が魅力的であることを。
本気で考えなければならない。
自分がどうしたいのかを。
君のその態度が、仕草が、いたずらが、僕を揺さぶる。
君の声が、笑顔が、涙が、僕を変えていく。
君が僕へ仕掛けるいたずらに、胸が張り裂けそうになる。
僕は……君をどうしたいのだろう?
わからない……
ただただ息苦しくて、もやもやして、考えがまとまらない。
答えの出ないことをずっと考えている。僕らしくもない。
こんなときはどうしたらいいのだろうか?
「どしたの?」
無言で考え事をしている僕は余程無愛想なのだろう。彼女が不思議そうに声をかけてくれた。
こんな風になったのは君のせいなんだけどね。
「いや、なんでもない」
「そんな私のこと考えてくれなくてもいいのに」
「違うよ。君のその自信を少しだけ分けてもらいたいよ」
とりあえず強がってみた。
彼女は先程から上機嫌だ。
「自信ってチューで分け与えられるらしいよ」
また訳のわからないことを……
君のその意図のわからない発言に僕はこれから先どれ程悩まされるのだろうか。
「ねぇ。どういうつもりなのさ君は?」
「どうもこうもないよ。本心だと思ってくれて構わんよ」
なんだよその変なしゃべり方は……
また僕を惑わせる曖昧な解答を君は僕に差し出す。楽しそうに。
僕は、少しだけイラついた。
「あっそ。もうなんでもいいや」
僕は考えることを放棄した。この子は僕の手には負えない。
僕は早々に答えを出した。見直す必要もないだろう。元々、住む世界が違ったのだ。
そう考えると気持ちが楽になった。
その途端、彼女との距離を感じてしまった。
もしかしたら、僕は進むべき道を間違えたのかもしれない。
それでも、一方的に膨れ上がる気持ちを僕はもう抱えきれなかったんだ。
やっぱり僕は、1人がお似合いなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます