第14話

 早く来るなと言われたが、僕は10分前に待ち合わせ場所であるお馴染みの場所に着いた。約束破ってごめんね。


 待ち時間で例の1冊でも読んで待っていようかと思い探してみるがいつもの場所には無かった。


 一人の女の子がその本を、というかメモを読んでいた。



 先走る心音に慌てて追い付いた僕は、頬に、体に、熱を帯始めているのを感じた。



 僕は一瞬で理解した。彼女が悲劇のヒロインだ。


 彼女の表情から幸せが溢れている。


 端から見てもウキウキしていることがわかる。あのメモを読んであんな表情を浮かべるなんて当事者以外にありえないのだ。



 抗がん剤の影響で彼女には毛髪が残っていないのだろう。かわいいニット帽を被っている。

 色白で透き通るような肌がきれいだった。母親のように背は高くないが顔立ちはとても整っていて普段の僕なら絶対に話しかけないタイプの人間だ。


 でも僕は今日、彼女に会うためにここに来たのだ。今さら怖じ気づいて自室に戻るなんてごめんだ。なにより彼女との約束を破るわけにはいかないのだ。



 違うな。そうじゃない。

 誰に言い訳をしているんだ僕は。



 他でもない僕が、彼女と話したいのだ。


 ふうっと短く息を吐き、意識的に一呼吸置く。

 気持ちの整理はついた。


 僕は自分の気持ちに正直に従う。まっすぐに彼女に近づき、話しかけた。


「ねぇ。それ、僕にも見せてくれない? それとさ、まだ5分前だよ」

 突然話しかけられて驚く彼女に僕は定刻5分前を指し示す時計を見せていたずらに笑った。

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