第13話
「届いたわよ」
母は抱えた小さな段ボールを私に差し出した。
「ありがとう」
私は受け取りゆっくりと包装を開けていく。
久しぶりの買いものにワクワクしていた。
箱の中からは花を模した装飾がついたニット帽が出てくる。やっぱりかわいい。
「それ、かわいいね。とっても恵に似合うわ」
母からもお墨付きをもらった。
私は嬉しくて新しく買ってもらったニットを被りいつもの場所へ向かった。
私の髪は、抗がん剤の副作用でとっくになくなっていた。普段からニット帽を被っているのだが、鏡に映る自分を見て絶妙にダサいと感じた。
だから私はネットでいろんなニット帽を探して母に頼んで買ってもらったのだ。
私の最後のわがままかもしれない。
ロビーの貸出コーナーに着き、1冊を手に取った。
見慣れた彼の文字が綺麗に整列していた。
心音が少しだけ早まるのを感じた。
A.まずはおかえり。それと、日にちは大丈夫。
僕はよく君からの手紙を読み直すんだけど、僕が偉そうだと伝えてから君はわざとらしく偉ぶることがあるよね。僕はアレが何故か好きなんだ。別に偉ぶってもいいんだけど一応僕が年上だってことは忘れないでよね!
よろしく。
お兄さんぶっちゃてもう。かわいいやつめ。
【好き】という言葉がとてもとても嬉しかった。それは直接私にかかった言葉ではなかった。私の仕草をそう思ったというだけの話だ。
それでも、涙が出そうになるほど嬉しかった。
それにしても私の涙腺はどうしたのだろうか? 死にそうになると涙腺は緩んじゃうのかな? 今度調べてみるか。
それから私は彼の言葉を暗記するほど読み直した。
患った脳に彼の言葉を刻み込んだ。私にとっての良薬は彼の言葉だ。それはちっとも苦くなく、甘く優しいものだった。私の大好物だ。
優しく温かな静寂が私を包む。
この時間だけが私を不安から解放してくれる。
この時間が私の全てだった。
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