第12話

 まだ返事がないことが分かっていても、僕は毎日数回はロビーの貸出コーナーへ足を運んだ。


 彼女が生きていることを知った日から、この行動の意味は変わった。

 

 それまでは、重くのしかかる不安から必死に逃れようともがいた結果、無意識に僕はここへたどり着いていた。

 今は、そうじゃない。僕は必ず朝と夜、つまり起きた後と寝る前にロビーに向かう。それは、確認なんだと思う。自分が生きていることと、この文字を書いた君も、ここにはいないけどちゃんと生きているということの確認だ。

 文字を見るだけで、僕の気持ちは落ち着いた。時には書かれた文字に触れてみたり、特に意味はないのだが、無意識にそんな行動を取るようになっていた。




 その日、寝る前にロビーへ向かい本を手に取りページを開くと、新たなメモ紙が増えていた。


 心臓が、トクンと大きく跳ねた。


 綺麗に折られたそのメモをゆっくりと開くと見慣れた文字に体温は上昇した。






 久しぶり!

 6月25日の15時にこの貸出コーナーで会いましょう!

 時間厳守で! 早く来ても遅れてもダメだからね!

 日にち変えたかったら解答欄にお願いします!



A.________________





 なんだか素っ気ないな。

 約束の内容を詰め込んだだけのメモを、僕は何度も何度も読み返した。

 君の文字だ。君が帰ってきたのだ。それだけで、僕は涙が出そうになった。



 網膜に焼き付くほど読み返したあと僕は少しだけ返事を書いて自室へ戻った。



 ベッドに入って眠ろうとしたが、興奮で直ぐに眠ることは出来なかった。



 あと何日かで君に会える。


 やっと、君に会える。

 

 先ほどの約束を何度も何度も頭の中で反芻する。その度に、僕は幸せな気分になり、徐々に睡眠時間が減っていった。


 僕は、君に会いたいという気持ちがもう押さえきれなくなっていた。

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