第11話

悲劇のヒロインさんへ


 手紙を書くのは初めてなのでルールはわかりません。書きたいことを書きます。


 手紙ありがとう。


 考えてみると僕は君の存在を知ってから、君に振り回されてばっかりだよ。僕も、君のことで頭がいっぱいなんだ。ふと気づくと君のことを考えてる。自分でも嘘みたいに思ってるよ。


 僕は幼い頃に色々あって他人が嫌いになった。それから誰かに興味を持つことはなかった。

 そんな中で僕の闘病生活は始まったんだ。そして間もなく君に出会う。まだ顔はsi知らないけどね。

 君の悪戯が、僕を少しずつ変えていった。

 

 僕はワクワクしたんだ。



 僕は病に倒れ、この病院に来た。そしてあの日、僕はたまたまあの本を手に取った。そこには君の悪戯があって、僕は気まぐれに君の問いに答えた。心ない僕の失礼な問いにも君は真摯に答え、僕を見放さなかった。

 たくさんの奇跡の上で、僕らは繋がった。


 【生きる】ということが、こんなにも胸が踊るなんて僕は知らなかった。


 実は1度僕は自分が生きる意味を見失ったんだ。この先両親が大金をかけて僕が数年長生きしたところで僕が何かを成し遂げられるわけでもないし、ただベッドの上で時間の経過を眺める生活に、生きていていいのかすらわかるなくなっていた。

 そのタイミングで、僕はあの本を手に取り、君と繋がった。

 君が、僕に生きる意味をくれたんだ。


 最期の瞬間まで、生きることには意味があって、僕たちはその瞬間まで精一杯生きなければいけないのかも知れないと僕は思ったよ。


 まぁ難しい話は置いておくとして、君からの返事が途絶えたあの日から僕はどうしたらいいかわからなくなっていたんだ。

 君がいなくなることが僕は本当に怖かった。


 だから、僕は君に会いたかった。



 それと、僕はちょっと怒ってるからね。

 君が聞いてなくても僕はたくさん文句を言わせてもらうよ。それくらい心配したってこと、忘れないでね。


 だけど、僕も色々楽しみにしてるよ!


 手紙本当にありがとう。


 君に「はじめまして」と「おかえり」を早く言いたいな。


 早く帰っておいで!





「手紙、なんって書いてたの?」

 母が聞いてきた。

「秘密だよー」

 別に言ってもよかったのだけど、なんとなく秘密にしたかった。この手紙は私だけのモノだ。話したところで減るわけでもないのだが。

「なんだか楽しそうね」

 そういう母も楽しそうだった。

「まぁねー。そういえば、どんな人だった?」

 お母さんは会ってきたのだ。私の気になる人に。

「秘密だよー」

 いたずらに笑うお母さんは本当に楽しそうだった。

「真似しないでよね。まぁもうすぐ会えるからいいけどねー」

 早く会いたいな。

 私は再び彼が私に送った手紙を読み返す。

「でもね、本当に優しい子だったわ。安心しなさい」

 穏やかで優しい声音がその言葉の意味を雄弁に語る。

「そっか。早く会いたいな」

 私はあえて自分の気持ちを言葉に出した。



 私は、恋する乙女状態となっていた。

 でも、こんな気持ちになるのは初めてなのだ。

 私は今、人生の一番最高な時期を経験しているのかも知れない。

 何を小娘がと言うことなかれ。私は特別なんですからね。

 もしかしたら、最期の時に向けて幸せが押し寄せてきているのかもしれない。神様も粋なことをしてくれるもんだ。恨んでてごめんね。でもまだ許せないけどね。



 向こうの病院に戻ったらまずはいつものアレを書こう。

 日にちと時間を指定して、会いに行くんだ。


 ふと、あることに気づいてしまった。

 私は母にある頼みごとをして、彼との対面を心待にした。



 あと2週間。短いようで長い日々を私は過ごす。


 貴方のいない生活はとても味気なく、会いたい気持ちが日に日に募っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る