第4話

 僕がメモ紙の問いに答えたのはいつだっただろうか。恐らくまだ1週間も経っていないはずだ。それなのに、メモ紙にはもう僕の質問への回答が来ていた。新たに僕への問いも書き加えられていた。

「なるほど。そうきたか」


僕が悲劇の主人公と名乗ると、まだ見ぬ君は悲劇のヒロインと名乗る。やはり女の子だったか。文字から想像し導きだした僕の解は正解だったようだ。なんだかワクワクする。


 病気が発覚してから、僕はこれ以上悲しいことはないだろうと考えた。そう考えると生きるのが少し楽になった。まぁ生きると言っても、寝て起きてを繰り返すだけなので、そうそう劇的なことは起きないのだが。


 僕は思ってもいなかった。この期に及んでワクワクするなんて。

 余命数年でも胸は踊るらしい。


 たくさんのことを諦めた。何かを望むことはしなかった。


 希望を抱く意味を見失っていたのだ。


 人間は生きていると、どうにか希望を抱こうとするらしい。

 そこに少しのきっかけがあるかないかで、人生は大きく変わるみたいだ。

 現に今僕は、心がホカホカしている。味わってきた苦汁のおかげで、この小さな小さな幸せを噛み締めることができた。まるで、昔からの夢が叶ったような、そんな気分だ。


 僕は持ってきていたボールペンで、まだ見ぬ君が僕へ宛てた問いに答える。



Q.貴方の性別と年齢を答えなさい

A.君はなんだか偉そうだね。そっちこそいくつなんだい?どうせ女の子なんだよね?


A._____________



 新たな問いを書こうとして、自分の回答が質問になっていることを思いだし、新たな解答欄を追加した。


 特に深い意味はなかった。質問を読んで、ふと思ったことを書いたに他ならない。少しだけ、僕も偉そうだなと思ったがそこまで気に止めることはなかった。


 これが会話なら相手の表情の変化を伺ってどう伝わったかがわかるのだが、文字だけだと僕の言葉は冷たく感じるのかも知れないな。


 書き直すかを少しだけ考えてみて答えを出した。

 まぁいっか。


 再び本を元に戻し、売店でコーヒーを母の分まで買って自室に戻った。


 母が来たら今日の出来事を話してあげよう。 


 僕は嬉しくてしかたなく、エレベーターから自室までをスキップで戻った。

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