第5話

 私が返事をしてから4日が経った。


 貴方はいつまで私を待たせるのだろうか? ひょっとしたらアレは気まぐれで、返事はもう返って来ないかもしれない……

 そんなことにも気づかないほど私はうかれていたのだ。


 私には時間がないけど、貴方はそうじゃないかもしれない。その可能性の方が高いことに今更ながら気づいてしまう。

 実は、もて余した時間にちょっとしたいたずらをしたような、そんなものだったのかもしれない。


 昔の怖がりで泣き虫な私が顔を覗かせる。あっちに行けと頭をブルブルと振って弱気を蹴散らした。


 貸出コーナーで1冊を手に取る。


 返事が来ていたことに喜び、内容に落胆した。

 

 主人公は主人公らしくヒロインに優しくしなさいよね。



 私は持参したボールペンで返事を書いた。




Q.貴方の性別と年齢を答えなさい。

A.君はなんだか偉そうだね。そっちこそいくつなんだい? どうせ女の子なんだよね?


A.■■■■■■■■■(ボールペンでぐちゃぐちゃに塗られて読めない)

すみません。私は15歳の女子です。

Q.貴方のことを教えてください。




 どうせってなんだよ! あんたの方が偉そうじゃん!

 最初に思ったことをそのまま書いてやった。


 書き終えると、文句を言ってやったぜと気分が大きくなった。その文章を眺めているとゆっくりと気持ちが変化していった。

 そして、返事が来なくなることが怖くてぐちゃぐちゃにして消した。



 私にとって貴方は唯一、私をワクワクさせてくれる存在だ。どんなに酷いことを言われたとしても、誰かと関係を持つということは、私にとっては特別なことだ。それは、普通の女の子には理解できないかもしれない。


 まだこの人を手放したくないと、強く思った。傍に居たいと願ったのかもしれない。

 私の悪戯に返事を書いてくれた人が、気づかぬ内にそれほどまでに大きな存在になっていた。

 閉塞的な生活を強いられていたからなのかこの数日間の経験を、私はひどく刺激的に感じていた。


 そのおかげで私は素直になれたのかもしれない。またひとつ成長しちゃったな。どうせもうすぐ死ぬんだけどね!

 心のなかでおどけて付け足した最後のフレーズに、やり場のない気持ちが膨れ始める。

 

 どうやってもその事実は覆らない。


 時間が私をただただ急かしてくる。そのことに意味はない。それがこの世界の決定事項。言うなれば運命ってやつか。


 私の大嫌いな言葉だった。遠ざけていたはずのそれが、形を変えて目の前にちらつくと、私は必死に運命を手繰り寄せようとしている。


 おかしな話だ。でもそれが生きると言うことなのかもしれない。


 なんとなくそんなことを思った。




 私は、幸せだったと思って死にたい。だから私は急がなければいけないのだ。そして確かめる必要がある。


 このワクワクが恋なのかどうか。




 その瞬間はすぐそこまで来ていることを、この時の私はまだ知らない。

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