第112話体育

 学生時代、体育の授業が苦手だった。


 僕は親から野球をやらされていたので体力だけはあったが、元々の運動センスは悪い方だ。

 サッカーやバスケなど、体育でよくやる競技は特に下手だった。


 体育の時間になると「どうやってやり過ごそうか」ということだけを考えていた。


 例えば、サッカーをしているとき。 

 サボっていると思われたら教師に怒られるので、適当にボールの転がった方へと走る。

 ボールが回ってきたらキープせずに、すぐにパスを出す。

 その繰り返しである。


 役に立たなくてもいいから邪魔だけはしないでおこう。

 それが体育の授業中、僕の考えていたことの全てである。


 球技よりもマラソンや器械体操の方が楽だった。

 一人で黙々とやればいい競技だし、失敗しても自分だけの責任で済む。


 そういうスタンスで高校時代を終えた僕は、これでもう体育の授業を受けることは一生ないな、と思っていた。

 が、大学に入学して驚いた。


 大学でも、体育の単位が必要なのだ。

 幸い競技を選択できるシステムだったので、僕は人に迷惑をかけずに済みそうなものを選んだ。


 その競技とは、太極拳である。


 元々は武術である太極拳だが、今では健康法として捉えられることも多い。

 ゆったりとした動きで、型を習得していく過程が楽しかった。

 サッカーやバスケよりも、僕には太極拳くらい静かで緩やかな運動の方が合っていたようだ。 


 マイナーな運動でも、やってみれば自分に合うものが見つかるものだ。

 何でも試してみるもんだなあ、と思った出来事だった。

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