第102話卒業の日

 高校時代、僕には友達がいなかった。


 淡々と三年間を過ごし、結局何も為さないまま迎えた高校生活最後の日。

 卒業式を終えて教室に戻ると、担任の教師がクラス全体に向けてこう言った。


 最後に一人ずつ、高校時代の思い出とこれから先の目標をみんなの前で発表しなさい、と。


 出席番号が一番の子から順番に、教壇に立って喋っていく。

 それは高校時代を共に過ごした仲間への感謝であったり、将来こんな大人になっていたいという展望であったりした。


 僕は順番を待ちながら考えた。

 無難なことを言うべきか、最後くらい面白いジョークを飛ばすべきか……。

 悩んでいるうちに、順番が回ってきた。

 僕は席を立ち、口を開く。


「えーっと……高校時代は全く友達ができなかったので、大学では友達を作れるように頑張りたいです!」


 ぼっちだったことをネタにした自虐である。

 これは大爆笑間違いなし!

 ……と思っていたが、その考えは甘かった。


 しーん、と教室が静まり返る。

 クラス中が真顔で僕のことを見つめた。

 僕は自分の背中から嫌な汗が吹き出るのを感じた。


「ああ、うん。じゃあ、席に戻りなさい」


 担任の教師に促されて僕は席に着いた。


 自虐ネタは仲の良い人が相手でないと、間違いなくスべる。

 それがこの日、僕が学んだことだった。


 僕の高校生活には何もなかった。

 そして、最後に嫌な思い出までできてしまった。


 全員の発表が終わるのを待ちながら、僕はそう思っていた。

 教師が締めの言葉を放つと、最後のクラスルームが終わる


 僕はさっさと教室を後にしようとしていたのだが、クラスメイトのK君という男子が話しかけてきた。

 K君とはほとんど喋ったこともない間柄だ。

 何の用事かと僕が戸惑っていると、彼は、


「一緒に写真撮ろう。最後だし」


 と提案してきた。

 K君は僕とツーショットで写真を撮り、僕の携帯にそれを送ってくれた。


 彼自身が写真を撮りたかったわけではないと思う。

 きっと、僕の発表を聞いていたたまれなくなり、僕に最後の思い出を残そうとしてくれたのだろう。


 いい人すぎるだろう、K君。


 僕にとって酷い思い出だけで終わるはずだった卒業の日は、K君の行動のおかげで少しだけマシなものになった。

 彼と撮った写真はプリントアウトし、今もアルバムの中に残っている。

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