第101話オタサーの姫

 もう何年も前の話だが、某SNSのコミュニティでオフ会をしたことがある。


 既にスカイプで話したことがあり、メンバーは皆オタクだった。

 これなら人見知りの僕でも仲間に加わえるだろうと思い、意気揚々と参加した。


 オフ会当日、秋葉原駅前に僕たちは集まった。

 オタクと言えば秋葉原である。

 コミュニティのメンバーは皆いい人たちで思ったよりもすぐに打ち解けた。


 年齢は皆バラバラで、十八歳から二十代半ばくらいまで。

 女性が一人だけいて、残りはみんな男性だった。


 紅一点の彼女はYちゃんという名前で、小柄で可愛い子だった。


 みんなでカラオケへ行ったり秋葉原の街を巡ったりして楽しかった。

 僕はそれまでもオフ会には参加したことがあったのだが、その中でも特に良い雰囲気のオフ会だと思った。


 しかし、それから数週間後。

 コミュニティは崩壊した。


 なんでも、Yちゃんがコミュニティメンバーの複数の男たちとデートをし、関係を持ったというのだ。

 まさにオタサーの姫。

 姫を取り合った男たちの関係は激しく拗れ、ドロドロの恋愛模様を呈した後に全員がフラれた。


 サークルクラッシャーって本当にいるんだなあと感じた出来事である。

 ……ちなみにYちゃんは、なぜか僕にだけは言い寄らなかった。


 うん、まあ、ドロドロした恋愛に巻き込まれなかったのは良かった。

 だが、自分の知らぬ間にコミュニティが崩壊しているというのも切ないものだ。

 僕一人だけ蚊帳の外である。


 今になっても、なぜ彼女は僕にだけ言い寄らなかったのか不思議に思う。

 ふと鏡を見て、気付く。

 ……えっ? 顔のせい? もしかして、僕の顔がアレだからスルーされたのか!?


 悲しい真実である。

 オタサーの姫も一定以上のルックスの持ち主にしか興味を示さない。


 言い寄られて捨てられた男たちも悲惨だが、Yちゃんに最も傷つけられたのは僕だと思う。 

 彼女のような女性とは二度と関わり合いになりたくないものだ。


 もういいや、二次元だけを愛して生きよう。

 僕はそんなふうに思った。

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