第96話夏の恋

 昔からラブコメが好きで、創作物に描かれるような恋愛に憧れている。


 夏、田舎道、ひまわり、入道雲、白いワンピースの少女……。

 田舎で過ごすひと夏の恋というのは定番のシチュエーションだ。


 僕自身、田舎育ちなので感情移入しやすい。

 子どもの頃は虫取りや魚釣りをしていたし、まさに名作ゲーム「ぼくのなつやすみ」のような少年時代だった。


 楽しかった。

 あとは美少女の幼馴染みがいれば完璧だったのだが、まあ、それは高望みしすぎだろう。

 美少女との恋愛は創作物の中で楽しめばいい。


 田舎でのラブコメもいいものだが、一方で都会での恋愛劇も好きだ。

 自分が田舎育ちなので、余計に憧れがある。


 かげろうが揺れるアスファルトの道路。

 少年が少女の手を引き、人ごみの中をすり抜けていく――。


 ああ、なぜ夏の恋というのはこれほど魅力的なのか。

 毎年暑い季節が来ると、急にラブコメが読みたくなる。


 小説の中での疑似体験でもいい。

 夏には恋がしたくなるものだ。


 五月だというのにとても暑い日の午後、僕はそんなことを思っていた。

 数ヵ月待てば、夏が来る。

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