第95話資格

 資格なんて、目的があって取らなければ無意味なものだ。


 大学時代、僕は経済学部に在籍していた。

 特に経済を学びたかったわけでもなく、何となく学部を選んだ。


 何となく選んだ学部で何となく講義を受け、自分はこのままでいいのだろうかと平凡に悩んだ。

 ぼんやりとした日々の中で、僕は段々と不安になっていった。


 大学時代が空虚のまま過ぎていく。

 このまま社会に出てしまっていいのか。

 社会に出ればただ働くだけで、何かを成す暇などないのではないか。


 焦燥感だけが募り、僕はなぜか資格を取ろうと思い至った。


 僕には自信がなかったのだ。

 自信がないから、資格のような確固たるもので自分自身を定義したかった。


 文系の大学生なんて、よほど勉強熱心な人以外は暇なものだ。

 僕は空いた時間を利用して、独学で何かの資格を取ろうと思い始めた。


 結局取れたのは、簿記二級だった。

 経済学部なら簿記かなあ、というフワッとした気持ちで勉強を開始し、一級を取るのは時間がかかりそうだなあ、という理由で勉強を辞めた。

 色々と中途半端で、情けない話である。


 簿記二級。

 せっかく取ったのに。今の生活には全く生かされていない。


 簿記の他にもTOEICを受けたりもした。

 だが、今となっては何点取ったのかすら忘れている。


 結局、資格を取るために奔走した時間は無駄だったように思う。


 自信が無いから何かで自分を定義したい。

 そんな不安から来る行動では、得られるものは少ない。


 むしろ、自信の有無なんて気にせず好きなことをした方が良かったのではないか。


 なるべく好きなように生きてやろう。

 自信は未だ無いままだが、そのままで生きるのだ。


 自信の無さなど気にするな、気にするな、気にするな……。

 薄暗い部屋で、僕はそうやって自分に言い聞かせた。 

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