第5話輝きが欲しい

 真夏の日。

 あまりの暑さに外出することを放棄し、僕はテレビで高校野球を見ていた。


 球児たちの全力プレーもさることがら、彼らの表情が生き生きとしていることに、なんだか胸を打たれてしまった。

 充実している人というのは表情からして違う。

 特に、目の輝きが違うと思う。


 僕はふと、部屋の片隅にある鏡を見た。

 そこには無表情で疲れたような目をした男が映っていた。


 少しだけ悲しくなった。

 高校球児たちの充実した目とはあまりにもかけ離れている。


 僕はため息をつきそうになりながら、過去を回想してみた。

 自分の目が、彼らのように輝いていたことはあっただろうか。

 そうすると、一つだけ思い当たる記憶があった。


 その記憶は、初めて好きなアーティストのライブへ行ったときのものだ。

 僕はライブに圧倒された。

 歌声にも演奏にも、舞台演出にも本当に感動して、胸がどきどきした。

 休憩時間に会場から一歩外へ出て、鏡を見たときに、驚いた。

 僕の顔は普段よりもずっと、生き生きとしていて、目が輝いていたのだ。

 楽しいことに夢中になっていると、これほど表情が変わるものなのか、と感じた。


 目の輝きってやつは、生まれ持ったものじゃない。

 どんな生き方をするかで決まってくるものなのだと思った。


 あの日、僕は好きなアーティストに輝きを貰った。

 だけどきっと、他人から与えてもらう輝きには限界があると思う。

 もう僕も大人なのだから、自分自身の行動で目を輝かせるべきだろう。


 全ては自分次第。

 高校野球を見ながら、そんなことを思った。


 皆さんも良い夏の日を。

 それでは、また。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る