第42話
そう、不敵に笑っていたのだ。穏やかな笑みなんかじゃなくて、いつものニヤニヤ笑いで!
「ま、まさかこれまで弱ってたの全部演技――」
「いっくぜぇぇーっ!!」
亜空間から羽根ペンを引き抜いたかなでは、何の予備動作もなしに衝撃波を吹っ飛ばした。
「ヴィントス!!」
ゴォッ
「ぐぁっ!!」
「くっ!」
完全に油断しきってた王子と騎士が、はるか後方に吹っ飛ばされていく。
「ガイアヒーリングッ」
間髪居れずに、上級治癒魔法が僕らの身体を包み込む。切られた箇所がみるみるふさがっていった。ブルブルと震えていた僕は、ついに叫んだ。
「ぜんぜん弱くなってないじゃん!!」
「いやぁー、魔力を抑え込むの苦労した。暴発しそうでヒヤヒヤだったよ。ほら、敵を騙すには味方からって」
「かなで貴様ァ!!」
「アタシたちをおとりにしてんじゃないわよっ!!」
復活した僕らにソッコーでボコボコにされそうになった大馬鹿は、慌てて手を振った。
「いやいやいや、現にこうやってチャンス作れたわけだし結果オーライじゃね!?」
見れば王子と騎士がこちらを警戒しながら回復体勢に入ったとこだった。
「くっ……だが多少の隙を作ったところで、到底敵う相手ではないぞ。力量も経験も差がありすぎる」
「オレたちがヤツらに勝てるとしたら、複合魔法しかない」
かなでの提案にみんなが息を呑む。僕たち、が?
「厳しくない? アレはよっぽど息を合わせなきゃヘタすりゃ逆流(リバース)するわよ」
「確かにリスクが」
「できるよっ!」
気づくと僕は叫んでいた。
「ここまで一緒にやってきたんだもん! 絶対できるよ!」
チームを組んだ時の確信にも似た気持ちがあった。なんでか、そう思ったんだ。
「……仕方ない、他に手もないし賭けてみるか」
「そうね、それしかないみたいだし」
苦笑した二人の肩をポンッと叩いて、かなでが位置を決める。
「じゃ、主砲はつむぎ。二人はココとココ」
「えっ」
「発射したらそれに巻き込むように得意属性をブッ込んで」
「アタシ水属性なんだけど? つむぎと反属性にならない?」
「つづり、私に合わせろ。雷だ」
「了解」
僕の斜め前に二人が立つ。その間から王子と騎士が立ち上がって向かってくるのが見えた。慌ててタクトを構えながら、すぐ後ろに叫ぶ。
「ちょっと待ってよ! なんで僕が主砲!? 魔力あるんならキミがやった方が」
「いいや」
かなでがひょいっと肩口に頭を乗せてくる。そちらを見ると夜明け色の瞳と目が合った。
「これはつむぎじゃなきゃダメなんだ。気づいてないかもしれないけど、オレたちの中心だから」
「僕……が?」
「魔力なら心配ない、全部返すよ」
「へっ? 返すって、何のこと――」
聞き返す前に後頭部に手を添えられ、口をふさがれる。状況を理解するより前に、すさまじいまでの魔力が流れ込んできた。
「――!」
なに……これっ! 全身が熱くってっ 力があふれてくる!!
「っは……」
「さぁさお立会い、いったれつむぎーっ!!」
内側から張り裂けてしまいそうな魔力を無意識の内に練り上げ、僕は熱に浮かされるままに叫んだ。
――響け、炎の旋律
バゴォッ!! と、地面すらえぐる勢いで、僕のタクトから炎が噴き出す。
「ななな、何このちから」
これだけの熱量だというのに、魔力は尽きるどころかどんどん加速的に増幅していく。
「「属性付与・ライトニングボルト!!」」
つづりちゃんと委員長の雷を巻き込んで、一直線に王子たちへと向かっていく。
「な、なにィーっ!?」
「構えろ! 防御展開を――」
二人の声は最後まで聞こえなかった。
僕たちが放った破滅的な複合魔法は、着弾すると同時にすさまじい音を立てて爆散した。
ようやくケムリが晴れた後、そこには地面に突っ伏す二人の姿があった。微かに胸が上下しているところを見ると直撃だけは避けたらしい。
「こ、殺したかと思ったぁぁ~」
「うわーっ、私たちは何と言うことを!」
さわぐ僕と委員長をよそに、良い意味でも悪い意味でも無礼講の二人がさっさと彼らを縛り上げてしまう。
「ったく、後ろから不意打ちとか騎士の風上にも置けないわね!」
「自分と同じ顔を縛り上げるとか、何かヘンな気分ー」
いや、まぁ、緊急事態だし仕方ない……よね?
いまだ暴走を続けようとする魔力をなんとかおさめて、僕はそっちに向かう。王子のそばにしゃがむとハッキリと言ってやった。
「僕たちは、勝った」
「……くやしいけど、そのようだ」
「だからお願い。僕たちに賭けてみてよ、きっとこの世界を救ってみせるから。あともう少しだけ待って」
王子は穏やかな眼差しでじっと見つめてくる。
「王子のしてきたことが間違ってるとは言わないよ。キミだって自分なりに考えて行動したんだものね。みんなを救おうとしてやったことなんだよね?」
僕はちょっと笑って言った。
「きっと正解なんてない。死んで次の世界に行くのも一つの手だと思う。だけどそれをするにはまだ早いと思うんだ。まだ道は残されてる。僕たちもう行かなくちゃ」
立って、ヒザをポンポンと払う。立ち去ろうとしたその時、声がかけられた。
「待て!」
振り向くと、王子は言おうかどうか迷ってるみたいに視線をさまよわせた。やがてゆっくりと口を開く。
「『影』はおそらく、あそこに――キジョウ遺跡に……」
がっくりと頭を垂れた王子は、苦しそうな声で言った。
「頼む、僕にはムリだった。君たちならもしかしたら……っ」
「うん」
一つ頷いた僕は、今度こそ駆け出した。
「教えてくれてありがとうっ、みんな、行こう!」
***
「キジョウ遺跡か。しかしなぜあのようなところに……」
とにかく走り出した僕たちは赤く染まった街道を駆けながら作戦会議をしていた。
かなでがへろっとした様子で呑気に言う。
「キジョウ遺跡ってどこにあんのー?」
「忘却術が効かないくせに、なんで覚えてないかなキミは」
っていうか、ちょっと待って。
パカッ
「あだっ」
「よくも騙してくれたな! ホントにビビってると思ってたんだからねっ」
怖い顔で言うと、かなでは何とも斜め上の答えを返してきた。
「超ビビってるよオレ」
「どこ……っ」
どこが、と言いかけた僕は異変に気づく。かなでは真っ青な顔をしている、なのに目を輝やかせていたんだ。
「すっげー怖くて、でもそれ以上にコーフンしてる! どうしよう、オレなんかおかしいよな? でもさぁ、すっごいワクワクしてんの! 冒険してる! 試練に立ち向かってるよオレ!!」
ひゃっほー!とか言いながらスピードを上げて先に行ってしまう。僕たちはそれを呆れた顔で見つめていた。
「な、なにあれ……」
「一周回ってハイになってない?」
「わからん! ヤツの思考は理解不能だ!!」
それより、行き先のことを考えなきゃ!
「キジョウ遺跡はこっからだとどのくらいだっけ」
「普通に走れば二時間で着く位置にある。だが、今は一刻も惜しいな」
空はさっきよりもさらに赤黒さを増している。熟れたトマトみたいな太陽の位置から考えるとたぶん日没頃にこの世界は――
「持ってあと半日!」
「チロはまだ回復しないわけ?」
つづりちゃんの言葉にポケットから火トカゲを取り出す。チロは起きてはいたけど、埋め火みたいに弱々しい明るさだった。
「ええいっ、ホウキの魔具でもあればっ」
その時、先を走っていたかなでがスピードを落として僕らの隣に戻ってくる。
「傷は癒えてるみたいだから、単にエネルギーが足りてないんだよ」
「えねるぎー?」
「そうエサ。お腹減ってるんだと思う」
立ち止まった僕たちは、とりあえずチロを岩の上に置く。僕は指示されたとおりにタクトを構えた。
「ハデにいっちょどうぞー」
火の魔法展開をしようとした僕は、ググッと自分の中の魔力が動き出すのを感じて目を見開いた。
「えっ……」
旋律を構成しても居ないのに、勝手に炎が渦巻き始める。
「うわぁ! なにこれ、なにこれっ!?」
どんどん大きくなる炎に恐怖していると、委員長が叫んだ。
「放て! それ以上巨大化させるなっ」
「っ、ファイヤー!!」
ボンッ
反動で尻もちをついてしまう。狙いが逸れた火球は草むらに着弾した。すぐにチロが目を輝かせて飛びつく。
「あたた、何なんだよもうっ」
「すんごい魔力ね。さっきの合体魔法の時も思ったけど、どうしちゃったのよ、つむぎ」
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