第35話
幼稚だと思うだろ? メアリー・スーもビックリさ。
でもオレは完ペキ頭にきてて、そんなこと考える余裕もなかったんだ。ただただアイツらをブッ●してやりたい。もしかしたら魔王ってこうして産まれるのかもな。
幸いなことに、オレは『影』とは違って創作世界に片足つっこんでるような存在だったから、曖昧なその立場を逆に利用すればいけるんじゃないかってね。
とは言え、簡単じゃなかった。その当時のオレのデータはひどく曖昧で、外見すらも決まってないただの「概念」だったから、まずは見た目の設定から始めなくちゃいけなかった。
ところがそこで問題発生。オレには話を動かすチカラはあるが、ゼロからキャラクターを生み出す能力は与えられてなかったんだ。
まぁ『影』との役割分担を思えば当然っちゃ当然なんだが、いやはや参った。見た目も名前も決まらないんじゃ中に入り込むことすらできないじゃないか。
仕方ないから姿はそこらへんのモブをコピぺして
***
サァァァ……
次の瞬間、オレは今の今まで動かしてた世界の中で目覚めていた。
その時の感動って言ったらなかったね、どこかの草原で倒れこんでいたんだけど、空が青いのなんの。
それだけじゃない、風が吹いていて、草がこすれあうザザぁという音が耳に優しく響いてさ、
「あぁ、世界が動いてる――」
思わず漏れた自分の声にギョッとしたよ。カスカスで空気が漏れ出るみたいな音だったんだから。
慌てて上半身を起こして自分の手を見つめてショックを受けたね、やっべーオレ半分透けてるじゃん!
どうやらキャラ設定が曖昧なのがまずったらしい。名前なんかとりあえず後でいいやって考えたのが間違いだった。やー、名前って大事。自分をそこに確定させるためにつけるといっても過言じゃない。
とにかくオレは慌てたよ、せっかくここまで苦労して入り込んだって言うのに、こんなマヌケなミスして消滅するなんて。
意識をこっちに投げ込んでるから、ここで消滅したら二・五次元に戻されるのか? それともこのまま死ぬのか? いや全然わからん。
「オレ、オレは……誰なんだよ!」
体はどんどん透けていった。同時に視界もうっすら白んじて行く。冗談じゃない、こんな最期迎えてたまるか! そう思ったその時だった――
「うわっ、な、なに!? どうしたの?」
突然聞こえた甲高い声に、オレの飛びかけた意識は引き戻される。見れば金髪の幼い女の子が青い目を見開いてこちらを見ていた。
(つむぎ!!)
見た瞬間、オレはコイツがさっきまで動かしてた『主人公』であることを確信した。
見間違うはずがない。
その顔を見た瞬間、いままでの怨みとか嫉みが一気に爆発して、気づけば草むらに押し倒してその細い首を締め上げていた。
「かっ、ハッ……」
見る間に青くておっきい目が潤んでさ、その……
最低だと思われるかもしれないけど、その事がすっごい気持ちよくて、っていうか正直に言うと
「ほら死ねよ! 早く死ね! オレが消滅する前に現れてくれてありがとなああ!」
我ながら超いい笑顔だったと思う。彼女は恐怖の表情を浮かべながらついにクタッと手を落とした。
やった! やってやったぞ! この話はここで終了だ、ざまァみろクソッタレ!
「……なんだ?」
ところがその直後、異変が起きた。とつぜん世界がぐにゃりと歪み、ねじ曲がったんだ。
そうか、主人公を失ったから世界が壊れるんだな、目的は達成したし願ってもない話だ。壊れろ壊れろ。跡形もなくオレごと消えちまえ。
こんな世界。
…………。
***
ハッと気づいた時、オレは再び草原に仰向けになっていた。
「うわっ、な、なに!? どうしたの?」
そして草むらをかき分けて飛び出してきた金髪の女の子に目を見開く。さっきとまるで一緒の展開だ。
「うわぁぁぁ!!」
デジャヴを感じる前に飛びかかっていた。もう一度主人公を殺し、荒い息をつく。なんだ、これは
……。
「うわっ、な、なに!? どうしたの?」
……。
それから何度殺しただろう。両の手で数えられなくなってきた頃、オレは悟ってしまった。
「なんでだよ、なんで終わらないんだよ、ループしてんじゃねぇよ」
主人公が死ぬなどありえない。予定にない死などすべてリセットされてしまう。
その時の絶望ったらなかったね、オレはこんなところでも『影』を超えられないのかと。
「ね、え、なんで、キミ、は」
か細い声を出してまた彼女が死ぬ。
なんでキミは? なんだよ、何が言いたいんだよ。
オレはぼんやりしながらまた繰り返す。
ほんの気まぐれだったと思う。ある時その先のセリフが聞きたくなって、首を締める手をほんの少しだけ緩めてみた。
虚ろな目で、もう息も絶え絶えだろうに彼女は手を伸ばしてきた。
「ねえ、なんでキミ、は」
――そんなに泣きそうな顔をしているの?
「教えて、よ、なんだかぼく、ずっとキミのことを知ってる気がする……何度も、何度も、その表情を見てきたような気がするんだ」
「……」
「夢の中のことかもしれないけど、でもぼくはずっと聞きたくて、でも届かなくて」
「……」
やめろ、やめろよ。手なんか差し伸べるなよ。気色悪い。
それ以上聞きたくなくて、潰してしまおうと力を込める。
また死ぬ。世界がリセットされる。
少しずつ変化してきたのは、殺される時に彼女が微笑むようになってきたことだった。
「何、笑ってんだよ」
「もう少し、もう少しで君に届くような気がするから」
うるさい、なにが届くっていうんだ。低次元のキャラクター風情にオレの気持ちなんて分かるもんか。バシッとその頬をはたいて叫ぶ。
「きもちわるいんだよ! オレの気持ちなんか一ミリも知らないくせに、いかにも『助けてあげる』みたいなツラしてんじゃねぇよ!」
どうせお前もオレを見下しているんだろう? ちっぽけな半端者が何かほざいてるって。
永遠の夕焼け世界を思い出す。
誰もいない、風もふかない、どこまでいってもオレ独り。
「わかってるよ! どうあがいたってオレは登場人物にはなれない! 要らないんだ!」
「……」
「もう、嫌なんだ……終わらせてくれよ……外から見てるだけなんてオレにはもう」
誰もいないあの世界に戻されるくらいなら、いっそ
「殺せよ! 殺してくれよ!!」
ずるい、うらやましい、なんでオレが、オレだけが
「――ッ!!!」
声の限りに泣き叫ぶ。
ふと、頬に優しく触れられビクッとすくむ。
目をあければ、優しく微笑む顔があった。
「要らなくなんかないよ」
「……」
「大丈夫だよ、だから泣かないで」
あぁ、どれだけその言葉に焦がれたことか。
「大丈夫」「泣かないで」なんて安っぽいセリフ、何度も言わせて辟易していたはずなのに。
「助けるだなんてそんな大層なことぼくにはできない、でもなんの力もないぼくだけど、となりにいることはできるよ」
「……そんなの、できるわけないだろ」
「できるよ」
「無理に決まってる!」
「ムリじゃない、やってみようよ」
正面に立った彼女は、太陽のような笑顔で手を差し伸べた。
「あのね、僕つむぎっていうんだ。キミの名前は?」
――あぁ、もう
膝をついたオレはぽつりぽつりと話し始めた。
こことは違う世界から独りぼっちでずっと見ていたこと、羨ましいと思って妬んだこと、メチャクチャに破壊してやろうと乗り込んできたこと。……そしてこの草原で何度もお前を殺したこと。
汚いもの全部はきだす勢いで白状していく。その頃にはもう、自分がどれだけ意味のないことを繰り返しているのか気づいてしまった。
「こんなことしなければ良かった……おとなしくあの次元の狭間にいれば良かった。そうすればこの世界は平和でいられた、素直にハッピーエンドをむかえてたんだ。オレが余計な介入したばっかりに……」
全てを聞いたつむぎは、ニッコリ笑ってオレの手を取った。そのまま自分の首へと導く。
「!?」
「いいよ、やりなおそう。出会いの場面からもう一度」
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