第15話


 ドキドキしながら紙を受け取る。

 今回の中間試験の結果を見た僕は、小躍りしながら自分の席に戻る。実技は平均よりちょっと低いけど、でも筆記は結構いいセン行ったな~

「嬉しそうだな」

「えへへー、まぁね」

 委員長が僕の様子を見てそう声をかけてくる。あの夢を見てから半月もたてば、インパクトも薄れると言うものだ。気づけば以前のように普通に喋れるようになっていた。

(きっとあの変な夢も、何かの間違いだったんだよね?)

 委員長は自分の成績表を見つめながら、難しい顔をする。

「私は思ったより伸びなかった。もう少し行くかと思っていたんだが……」

「どれどれ? うっ」

 そう言って見せてくれた成績に、僕はグッとつまる。実技A+ 筆記A-って――

「……やっぱり委員長って空気読まない」

「何っ? どういう意味だ、貴様のも見せろこのっ」

「ぎゃー! やだやだやだっ」

 必死に自分の成績表を死守していると、何者かに後ろからひょいと取られてしまう。

「あら、結構良いじゃない。筆記はアタシより上だわ」

「つづりちゃ……」

「みてよこれ、見事に平均だわ」

 そういってピラッと見せてくれた彼女の成績は両方ともB+ うわ本当だ、ビックリするくらいフツーだ。

「ちょっとつまんないわねー、劇的に良いわけでも悪いわけでもないっていうのは。あ」

 あぁぁ、僕の成績表がどんどん人の手に……。つづりちゃんの手からそれを引き抜いたのは、かなでだった。しばらく見つめた後、ニヤぁと笑ったその口からついに僕の成績が暴露されてしまう。

「一年三組 たんぽぽ組 つむぎ 実技C+ 筆記A+」

「…………」

「頭でっかちー」

「うわあああん!!」

 知られたくなかった実技の成績をバラされてしまい、恥ずかしくて飛び掛っていく。けれども頭上高くに上げられてしまっては背の低い僕には届きようもない。

「返せ~っ、このぉ!」

 ならばと、もう一方の手に握られていたかなで自身の成績表を奪う。ふんっだ、人の成績をバラすんだから、自分の成績をバラされたって文句は言えないはずだ!

 戦利品を三人で覗き込むと、ある意味では予想通りの結果がそこにあった。

一年三組 たんぽぽ組 かなで 実技S 筆記D-

「え、ちょっと、これどっちからツッコミを入れるべき?」

 つづりちゃんのとまどったような声を機に、固まっていた僕たち二人の声が同時に響き渡る。

「実技Sとは何だ! アホか!」

「筆記Dって何だよ! バカか!」

「ちょっとー、バカかアホかどっちかにしてくれよ。どっちもイヤだけど」

 くらぁと意識が遠のく委員長に比べ、ある程度の予想はついていた僕は再度かなでに掴みかかる。

「筆記D-って何さ! どうやったらそんな成績が取れるんだよっ、せっかく僕が教えたっていうのにキミはーっ」

「まぁ待てつむぎ。以前のオレとは一つ違う点がある」

「?」

「自分の名前は間違えずに書けたぜ!」


 ――ッパーン!


 無言で頭をはたいて静かに涙をぬぐう。もう金輪際コイツに勉強なんか教えてやるもんか!

「S? Sとはなんだ、Aのさらに上に段階があったと言うのか……バカな……」

 激しく落ち込み始める委員長は、問いただす気も起きなかったようだった。


***


「どうじゃ、今年の新入生は」

「校長」

 職員室の机の上で、困ったように何かのデータを見つめていたヒノエは声をかけられてふと顔を上げる。

 転移装置の鏡を潜り抜けやってきたのは校長だった。ヒノエは見つめていた用紙を校長に渡すと、頬に手を当てため息をついた。

「実技で魔力の量を測定しましたでしょう? その結果が気になる生徒が一人居まして」

「ほう? どういうことじゃ」

「なんというか、魔力の回復スピードがダントツに遅いんです。元々の魔力もそこまで多いほうではないですからこれから先の依頼実習での危険性を考えると不安になってしまって……」

 校長は渡されたデータを目で追い、問題の生徒の名前をチラリと見る。ふぅむと唸った彼女はデータを担任に返した。

「確かに消費する魔力と比べ回復スピードがちと遅いようじゃの、ようは異様に燃費が悪いというワケか」

「えぇ、そうなんです。下位魔法を連続で五発も打てばすぐに空っぽになってしまう計算ですわ」

 多少古めかしい動作でアゴをなでていた校長は、気をとりなおしたようにぱっぱと手を振り、こう判断を下した。

「まぁ、技量だけがすべてではないからの。訓練を重ねるうちに多少は改善されるだろうて……よいよい、しばらくは様子見にしておけ。依頼実習の危険性は優秀なリーダーだから何とかカバーできるじゃろう」

「わかりました」

 それでも晴れない顔つきのヒノエは、用紙とのにらめっこを再開しながらぽつりと呟いた。

「誰よりも努力家のアナタに才能がないだなんて可哀想に……つむぎ」

 あ、と声をあげた彼女は、今まさに出て行こうとした校長の背中に声を掛ける。

「忘れてました。その魔力計測器なんですが割れてしまったので新しいのを購入できますか」

「なんじゃ、寿命か? アレも古かったからのー」

 鏡から身を引き戻した校長に対し、いいえと小さく首を振るヒノエはどこか引きつった笑いを浮かべてこう答えた。

「一度に魔力を注ぎすぎたせいで、測定値の限界を超え爆発しました……」

「………」

 今回使用した測定器は正式な魔導師も使うもので学生用という訳ではない。強大な魔力を誇る校長の測定にも耐えられるそれが爆発したということは――

「なんとまぁ、今年は極端な生徒の多いことよ」

「ホントに。でもそのコは筆記がボロクソなんです。あの二人を足して二で割れたらちょうど良いんですけどねぇ……」

 そう上手くは行かないことを知っている教師らは、そろってため息をついたのだった。

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