第14話

 僕たちは一斉に叫んでかけよろうとするのだけど、あまりの熱気に近寄ることさえままならない。

 そしてようやく白い水蒸気が晴れてきた頃、そこにあった光景に僕たちは愕然とする。

「信じらんないっ、フツーあんな距離で爆破する!? ブリザードッ」

「お前に負けるのだけはゴメンなんだ! フレイム!」

 先生たちは何事も無かったようにそこで戦い続けていたのだ。ウソみたいに頑丈な人たちだ……。

「杞憂だったな」

「なんか、あの人たちバトルハイになってない? アタシたちの存在すっかり忘れてるわよ」

 委員長とつづりちゃんの言葉を聴いた二・三組はなんだか脱力してしまって、自主練習をするためにそのまま校庭に出たのだった。


***


 ――はーはははは!!

 ――おほほほほ!!

(まだやってる……)

 校庭に出ても、講堂からはまだ高笑いと爆発音が聞こえていた。いつまでやるつもりなんだ……


 ガバッ!


「うわぁ!?」

「つーむーぎっ、きいてきいてー!」

「重いって……ば!」

 いきなり後ろから圧し掛かってきたかなでを払いのけると、その向こうには見慣れない二人の人物が居た。

 一瞬僕の目がおかしくなったのかと思った、だってそこに居た二人は鏡に映したかのように、おんなじような服におんなじような顔でおんなじようなポーズでおんなじ表情をしていたのだから。

 男女の双子だと気づくと、彼らはくるりと一回転してややオーバーアクション気味に、そしてすばらしくよく通る声で話し出した。

「はるか!」

「かなた!」

「「二人合わせて遥か彼方でーす! よろしくっ」」

 一拍のずれもなくユニゾンを奏でたその自己紹介に、僕はちょっぴり感動して音の余韻を味わってしまう。完璧に揃ってた……。

 横からやってきたつづりちゃんが、双子を見るとビックリしたように言った。

「首都で売り出し中の双子アイドルユニットじゃない。ここの生徒だったの?」

「ちなみにこっちがオレの同室。ほら、前に紹介するって言ったっしょ?」

 そう言ったかなでが、男の子の方をグイッと引き寄せる。二人は鮮やかな白に近い金髪で、きらめく紫の瞳は明るく、確かに芸能人というか『おーら』があるような気がした。

「どもーっ、かなちゃんの同室のかなたでっす」

「やほーっ、かなちゃんの同室でもないはるかでっす」

 相方が喋ると同じだけ喋らないと気がすまないのか、はるかちゃんも揃って自己紹介をしてくれる。なんだか楽しい人たちだなぁ。

「僕はつむぎ! 三組のたんぽぽ組だよ」

「アタシはつづり。ま、よろしくね」

「「公演とかで居ないことが多いけど、よろしくねーっ」」

 歌うようにしめた二人に、僕はピンと来て一つ聞いてみた。

「ね、二人はもしかして歌式魔導師を目指してたりする?」

「「そうー、よく分かったねー」」

「わぁ、やっぱり! 歌式の人に会うのって初めてなんだ、もし良かったら模擬演習してみない?」

 顔を見合わせた双子は、ニッコリ笑うと承諾してくれた。

「「コンビのチカラ、見せてあーげーるー」」


***


 四角くラインを引いたフィールドの上で、僕は張り切って双子と対峙していた。その横で、つづりちゃんが若干不安そうに魔具をいじっている。

「歌式と戦うのは初めてなのよね。大丈夫かしら」

「へーきへーき、勝たなくったって良いんだよ。模擬演習なんだから」

「いや、アタシが心配してるのは勝ち負けじゃなくて――」

 その時、チューニングを終えたらしいはるかちゃんが魔具のマイクを片手にその美声で高らかに歌いだした。すぐさま彼女の周りに魔法展開を表す黄色い光が回りだす。

 歌式は音式と系統が近いらしく、自分の発する声のリズムと音程で自然に呼びかけ、魔法を発動させるのだそうだ。

 僕はいつでも防御魔法を発動させられるように周囲のリズムをよく聞いておく。つづりちゃんも同じくスマホに防御スペルを打ち出しているようだった。

 ところがそこで双子の片割れ、かなたくんが相方に合わせるように歌いだしたのだ。二人の歌声はピタリとハモって驚いたことにどんどん威力を増していく。

「え、え?」

「来るわよっ」

 一小節を歌い上げた双子は、パンッと手を合わせると踊るようにポーズを決めた。

「「サンダーストームッ」」

 叩きつけるような雷の嵐に、つづりちゃんは素早く対応するのだけど双子のユニゾンに気を取られた僕は上手く集中することができずに中途半端な防御をしてしまった。

「リバイア!」

「あ、わっ、シールド」

 ! いけないっ、これじゃ前方しか守れない――

 気づいた時にはすでに遅く、全身をしびれるような感覚が貫いていった。すぐに体の自由が効かなくなり、その場に崩れ落ちてしまう。

「つむぎ!」

「うあっ、ぁっ」

 舌までしびれて上手く動かせず、僕はしばらく喋ることもできなかった。



「「ゴメンねー、あそこまで直撃するとは思わなかったー」」

「ううん、ボーっとしてたこっちが悪いんだ。気にしないでよ」

 ようやく体の痺れが取れてきた僕はそう言って苦笑する。あーあ、自分から持ちかけた勝負だったのにカッコ悪いとこ見せちゃったなー

 簡単な治癒魔法をかけてくれていたつづりちゃんが、心配そうな顔をして説明してくれる。

「だから不安だったのよ。音式と歌式って戦うととっても相性が悪いのよ。どちらも音を扱う方式だから一方が相手に引きずられて影響を受けやすいって聞いたことがあるわ」

「うぅ、とっても良い勉強になったよ……」

 そっか、だから音に引きずられて上手く防御魔法を発動出来なかったんだ。……単純に僕の実力不足って可能性もあるけど。

 それにしても――と、双子を見た僕は、憧れの眼差しで二人を見つめた。

「ユニゾン攻撃ってすごいんだね! 息が合えば複合魔法も使えるんだ!」

 複合魔法というのは、さっきで言えば『雷』と『風』を合わせた高位魔法のことで、一人で使うには相当の技術がないと扱えないと言われてる。それを僕と同じ学年のコが使っちゃうんだから、二人で息を合わせるっていうのはすごく便利なんだな~

 そんなことを思っていると、思わぬ提案を彼らはしてくれた。

「「つむぎもやってみる~? 私/俺たちが合わせるから、自由に歌魔法を使ってみてよー」」

「ホント!?」

「「音魔導師なら、きっと上手くいくよー」」

 よぉ~っし、何事もチャレンジだっ

 ここですぅっと息を吸い込んだ僕は、少し離れたところに居たかなでが全速力で逃げて行くことに気付かなかった。


***


 必死で距離をとったオレは、それでも後ろから響く強烈な歌声(仮)に軽く頭痛を覚えてよろめいた。

「相変わらずひっでぇ音痴……」

 絶対音感を持つものは、歌うと意外にも音痴が多いっていうのは本当の話なんだな、これが。

 振り向けばバタバタと倒れていく二・三組の生徒たち。あーあー、本人は気づかずに気持ちよさそうに歌ってるよ……。オレ知らないかんね。


***


 ところでヒノエ先生とエクス先生の勝負はどうなったかと言うと――

「くだらん事で張り合っとらんで、壊した講堂の修理をせんか!!」

 と、言うニキ校長の一喝により、両者引き分けになったそうだ。

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