第40話 蛇尾と八尺さま


 今回は異次元の生き物二種類について書こうと思う。

この文章はユーダの体験談を元にしている。ユーダは現在高校二年生だが、今回のエピソードの1つ目は最新のものである。


 さて、高校生になったユーダがある夜、寝室として使っている和室へバタバタと駆け込んできた。障子戸を慌てて閉め、真剣な表情で後ろをうかがっている。怯えているようだ。

理由を尋ねると、「八尺様だよ!」と言う。私はその妖怪について知らなかったので、その時はキョトンとしていたと思う。

ユーダは「ぼ、ぼ、ぼ…って言ってる。頭の中に聞こえてきた」と早口で言って、がばっと布団をかぶり、しばらくじっとしていた。

わけも分からず見守っていると、やがて頭だけを出し、八尺様について説明をしてくれた。


 ネットでも有名な妖怪の類である。最近ではネタにされてイラストなどもたくさん描かれているようだ。

八尺という名の由来はそのべらぼうな高身長にある。文字通り八尺。ニメーター四十センチ。

巨人の女性だそうで、白いワンピースを着て帽子をかぶったイメージが出回っている。

「ぽ、ぽ、ぽ、……」と呟きながら、徘徊しているらしく、彼女に魅入られたもしくはロックオンされた男性は何処かへ連れ去られてしまうそうだ。


「ぽっ、ぽっ、ぽっ、って言うらしいけど、ぼくには低めの声でぼ、ぼ、ぼ、って聞こえた。八尺様の仲間じゃないかと思う。」

心配する私に彼は付け加えた。

「この部屋は八尺よりも上の階にあるから、外を通ってても見えていないよ。僕も気になったけど、やばいと思って窓の下を見ないようにしたから大丈夫。」

「でも、頭の中に声が聞こえたってことはロックオンされたんじゃないの?」

「違う。あいつは周囲に聞こえるように声をたてながら歩いてた。耳から直接聞いたようなのに、骨を伝って聞こえる感じ。」


 ユーダによるとその声は低くて男性のようで、でもネットで話題の八尺様に内容は似ているのだ。

明らかに三次元にすぐ近い場所にいて、誰かに聞かせるために声を上げている。獲物を捕獲するためにだろうと推理していた。

見えない世界の存在と常日頃コンタクトをとっている彼であっても「明らかにおかしい。普通の状態じゃない」感じの聞こえ方だったようである。


八尺様には男性もいるのではないか。聞こえた声は男性で女性の獲物を探していたのではとも語っていた。自分は対象外だから助かったのかもと。

推測に過ぎないけれど。


 以前、夜に窓の景色を眺めていたら、ユーダが横から「あ、何か歩いてる」と、我が家のあるビルの下の道路を示したことがある。私には影も見えない。

しばらくして「大丈夫、向こうは気づいていない。行っちゃった」とユーダは囁いた。

それは多分霊か何かだったのだろう。


想像するとぞっとする。

ユーダが窓から覗いた時、歩いていた八尺様がこちらを目をやる…、ギラリと光る双眸。気づかれたが最後、逃れる事はできない。

そんな事にならなくてよかった。


 「八尺様の声はものすごく何かを求めている感じだった。到底、あんな風にはなれないよ」

見た目は人間のようだと伝えられているが、紛う方なき化物なのだろう。

多分、彼女の求める何かは本当には手に入らないのだ。だからこそ、永遠に求め続ける。そういうのも、地獄だろうね。


ネットには興味深い八尺様のお話が多くあるので私が真剣に読んでいたら、ユーダが「作り物もあると思うけどさ」とクールに宣った。

「んじゃ、あなたのお話はどうなのよ? 」

「ぼくのは本当の話だって」


……確かに、怪談としてはオチがない。文章を書く側としてはもう少し「ふくらませる」べきだろうが、そうは出来ないので

この話はこのまま、ここで終わりである。



2つ目の生き物はネットを探したが、該当する存在(妖怪?精霊? )が見つからない。あまりメジャーじゃないのかもしれない。

昔、中学生ユーダが夜の寝室で見つけた異次元の生き物である。


部屋の隅にプラスティックで出来た浅めのカゴ四段からなるワゴンを置いていて、中に細々したものを入れている。

そういえば幼児だったユーダがそのワゴンのカゴの中に小さな人間がたくさん住んでいて、「団地」になっていると一生懸命語りこんでいたのを思い出す。「まー、想像力豊かねえ」などど喜んでいたのだが、あれはひょっとしたら、本当の話かもしれないなあ。


 で、話をもとに戻すと、そのワゴンの下の方をユーダが指さして言ったのだ。

「何か、そこにいる!」

そして、即座に反応したアーガイルのコメントを言語化した。


「これは…珍しい。『蛇尾(だび)』だぞ!」


そこにいたのは、そう呼ばれる通りの外見をした存在だった。

四つ足で、狐か犬のような見た目なのに、尾だけが蛇のように長く細くウネッているそうである。ちょっと、想像しにくいけども。

『蛇尾』はぽんと跳躍して、ユーダの肩に飛び乗った。

そして、彼の匂いをくんくんと嗅いでから、姿を消した。


とても古くからいる存在なのだそうだが、滅多に見ることが出来ないらしい。

で、『蛇尾』と絡むと頭が良くなるという効能があるらしいのだが、当時中学生の頃から今に至るまで、その効果が出ているとは言い難く、その噂はユーダだけにはどうも当てはまらないようだ。ひじょーに残念である。

ちなみに『蛇尾』はそれ以降、ウチには現れていない。


 ユーダにこの文章を読んでもらってチェックをお願いしたら、「頭が良くなるじゃないよ。運が良くなるんだって」と言った。

だが、私の記憶ではそうではなく、親として「子供の頭がよくなるなんて、それはラッキーな!!」と思ったことを覚えているし……ううん、どっちだ?


先日、私のデスクを掃除していたら、タイミングよくその当時に書いていたメモが見つかり、「蛇尾」の効能が判明した。

「考える力がつく」のだそうだ。

そういえば、学校の三者面談の折、担任の先生はユーダと話をしながら「相変わらず、よく考えているねえ」とおっしゃっていた。

思考力はあるようである。

ただ、成績は今ひとつ。


本人の名誉のために書いておくと、社会や理科関係はトップクラスだ。しかし、特に苦手なものがある。


「蛇尾」さんには今度是非我が家へ再訪いただいて、ユーダに「数学的思考力」をお与えいただきたいと願っている。三角関数あたりを重点的に 笑




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見えない世界の備忘録~少年ユーダの不思議な日常 逢原 冴月 @ukanruri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ