第39話受験生ユーダの日常


 中学三年の頃のお話。ユーダもご多分にもれず高校受験に臨む日々を送っていた。

受験生は勉強が必要である。もんのすごく必要だ。めちゃめちゃ勉強せねばならない。

しかし、なかなかそれがうまくいかなかった。


ある時、彼が場所を変えたら集中できるだろうと別室で(うちはそんなに広くないけど)勉強することにした時の事。

しばらくして、様子を見に行ってみると、机に向かったまま、前方の左辺りをぼうっと眺めている。

「何してんの?」と尋ねる。

すると、「キャメルのダッフルコートを着た背の高い女の人が、立ってる。」と見ているところを指さした。

ユーダの指さす先は、普通に飾り戸棚が占拠している空間である。

次元が違うところに存在しているというか、まあ、霊体でしょうね。

顔は良く見えなかったそうで、「誰かを待っているみたい。」と言っている。

「100年くらい」ええ?

ここ日本だし。ダッフルコート着てて、100年はないんじゃない?と言ったら気のない風で「そうかあ」と応えた。


 まだある。これは夜遅く。食事をするダイニングテーブルでユーダは英語の勉強をしていた。

私も同じテーブルで付き合って文章を書いていた(下書きは手で書く事も多い)

勉強がひと段落ついて、ユーダが受験に持っていくシャーペンの話をし始めた。すると……


神棚のある隣の部屋から何か聞こえたらしく、ふっと耳を澄ませる様子になる……甲高い声が聞こえたらしい。こんな感じ。


あい はぶ あ ぺえん!!!


ちっちゃい子みたいだ。誰だかわからないけど、勝手にシェークスピアの「真夏の世の夢」に出てくるいたずらッ子の妖精パックを連想した。

其の頃流行っていた芸人さんの持ちネタだったっけ。随分、流行りもの好きだねえ、キミ。


 そして、いつもユーダのガイドとしてついているアーガイルも……歴史の勉強をしている時に、色々ぶっこんでくる。

先日は『出雲の阿国』のことをこう評していたらしい。

「現代で例えるなら、きゃりーぱみゅぱみゅだな」

主にファッションの方面でのことだと思うけれども、阿国は、かの時代におけるきゃりーちゃん級のインパクトのある恰好をしていたんだね。

わかりやすいけどあれだ、アーガイル。受験には直接関係なくないかい?すまないが、混乱すると思うんだよ、ユーダは。

「あなたはアカシックに入れるんだから、その内容からサポートしてよ」と要望してみた。以下がその応えである。


「ほんとにいいのか?アカシックから読み取った正確な歴史をテストで答えたら、バツになるよ。」


うっ、確かにそうかも。日本の歴史にはきっと我々がひっくり返るような事実がある。

(私は「竹なんとか文書」は本当の話だと思っている。あの、この国の象徴であらせられる御方のご先祖が、龍の姿をしているという話とか。中大兄皇子はただ反乱を起こしただけなのだという説もあるよね。)


そんなこんなで、ユーダが受験に集中できているのかどうか、傍から見ていると大変に心配だった。しかし、アーガイルは平気な様子で「収まるところに収まるから心配するな。」とのたまった。、


 「最初の希望」ユーダ君は、目に見えない世界においては様々に援助があり、また特別扱いもしてもらえるようだが、三次元においては結構ハードな日々を送っていたりする。

受験に関してもそうで、こつこつと真っ当にやらなければ成果は出ない。彼のクラスメートたちとおなしだ。

ズバリ言うと高校は通過点で、将来を見据えてブレずにどれだけやれるかが問題なのだろうけど。


堅物でオタクな青春を過ごした私としては、後から思い返してふと愛おしく微笑むような日常を、今だけの珠玉の日々を思う存分に味わって欲しいと、そこを強く願っている。



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