第38話門番はミノタウロス


 ユーダが見えない世界と濃い交流を持つようになってから、我が家の警備が厳しくなったらしい。

我が家が別次元のレベルでサロンのような、道の駅(何でだよ)のような場所になってしまい、無法者が入り込まないように防護をする必要に迫られた。特に玄関は今までに沢山の門番が順番に警護を堅めてくれた。

私の記憶にある最初の番兵さんは龍である。ヒーローでもアーガイルでも龍次郎でもない。青龍。イメージとしては一般的な緑っぽい色の長あい龍だ。

彼はユーダに長時間に渡ってサラリーマンのようなぼやき節を披露していて、龍なのに人間臭かった 笑。何か木の椅子か何かに座って裸電球の下でぼーっとしているイメージだ。


その次は前にも書いた『ステルス用心棒 松太夫氏』。こちらは手練の武士である。波動は一見低いけど、腕は確かである。


そして三番目が彼である。神話上の生物『ミノタウロス』。

いや、私は大丈夫。正気だ。

ユーダもギリシャ神話くらいは知っているのだろうが、この名前を言いにくそうに発音していた。あの牛の頭を持った屈強な人型の生き物である。

実は彼を手配したのは長珠さまだという話だった。


 唐突だが、ある時わたしは風邪のウイルスにやられてトイレに籠もっていた。

便器を抱え嘔吐しまくっていると、閉めたドアの向こうに誰かの気配がする。

具合が悪いせいで通常モードで無くなっていたせいなのか、脳裏にあるイメージが浮かんだ。

大きな赤いリボンを結んだポニーテールの女の子。目が顔の半分くらいに大きくて、三等身位のまるでアニメキャラみたいな少女の絵面が強烈に現れた。トイレの前の床にぺたりと座り込んで両手をねじるようにして、うるうる眼でこちらを見つめている。し、心配されている……

以前ユーダが語っていたが、あちらの世界の事象について理解しやすくするためにアーガイルが時々サポートして『ローカライズ』してくれることがある。

私の脳内イメージもその様な感じだろうか。


女の子なら彼女だろう。症状が落ち着いてからユーダに言った。

「せつさんに大丈夫だからって言って。ただの風邪だよ。深刻な病気じゃないから」

するとユーダはせつさんの言葉をけろりと伝えた。

「わたしじゃありません。ミノタウロスが……」


ミノタウロスなのかよ!!赤リボンのポニテのちび美少女キャラがかよ!!

ボディービルダーな牛頭人間の内面イメージなのかよ。はああ??

激しく違うじゃないかよ!?少しは中身と外見を揃えてくれよお!!


どうも、ウチのミノタウロスは中身は乙女のようである。門番が務まるのかな。そもそも、玄関を守らずにトイレを守ってどうするの。そりゃ、狭い玄関でトイレも近いけども。つか、せっちゃんクール過ぎない?


 しかし、ミノタウロスは幸いにも気は優しくて力持ちの部類だったらしく、門番もつつがなくこなして、任期満了となった。というか、こちらの玄関からの侵入者があまりおらず、今現在はあちらの世界からの家への入り口(そんなものがあるのだ)を警備してくれているとのことだ。(アーガイルの話ではミノタウロスと近い種族にもっと大きくて強いのがいるが、凶暴でとてもこんな役目は出来ないそうだ。)

優しい性格だとストレスも大きいかもしれないが、任務はきちんと果たせるとは心も身体も強いのだなあと羨ましく思う。


脳内美少女のことがあってから私も彼に親近感が湧いてしまい、旅行へ行って家を空ける時などは「行ってくるね、よろしく~」などと心の中で声をかけたりしていた。ユーダが語るには、アーガイルはそういう私を「だあれもいないかもしれないぞ」と笑っていたらしい。


以前も「あなたは地球人のくせに馴染みすぎだ!! 」とおかしな怒られ方をしてしまった。少しは疑えって? ご心配なく。ユーダに近づくおかしな輩は、話す内容と気配でわかります。母は強し。……ああ、そういう方向の疑えじゃないのか。


 そして、家の玄関は現在、自動警備システムにまもられているそうである。(あの頃と比べると訪問者も減ったらしい) 見えない世界のアルソックのようなものか。

もう、何でも有りだな 笑

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