第37話 もけもけ
ユーダの過去生での奥さんのせつさんがウチにいた時期、あちらの世界の或る生き物をせっせと世話していた。
その生き物の名は『もけもけ』。
ユーダが教えてくれたところによると、形状は「真っ白なまっくろくろすけ」という甚だ矛盾した答が返ってきた。
「まっくろくろすけ」ってトトロの?「すす払い」のことね。
色は白いが、形は毛が生えてて丸い感じ。まっくろくろすけみたいに小さい丸いのが群れているわけではなくて、単体で存在しているようだ。
大きさを三次元で例えるのは難しいが、テニスボール位だという。
謎の生物として、三次元で有名な『ケサランパサラン』に似ているそうな。
最初のうちは目鼻もはっきりせず、話すことも出来ないふわついたかたまりのような様相をしていたが、この生き物はどうやら進化するらしい。
8~7匹はいるらしい。多いのでユーダもきちんと把握できていない。
その頃は万事こういう調子だった。
おやつタイムのせつさんお手製の大皿いっぱいのクッキーがおいしそうだとユーダが言う。「食べてみたいなあ」と受けたら、洗い物をしていて手が離せない私にユーダがこちらを向くように促した。「せつさんが食べさせてくれるって。はい、あーん……」
「あ、クッキー落っこちた…ああ、もけもけが……」
次元が違うので私の口に入るわけもなく、床に落ちたクッキーはもけもけがこれ幸いと満足そうに貪り食ってしまうのである。
だが本来、もけもけは辛いものが好きなのだそう。義母から揚げかまぼこ(魚のすり身揚げ)を何種類も頂き、さっと焼いて夕食の一品に出した際、コーンや玉ねぎやタコ入りなど、様々な味のかまぼこの中に、断面が赤っぽく見えるほどの七味唐辛子入のものがあった。
「もけもけに食べさせていい?」とユーダがねだった。許可するとそのまま無言で皿の上の揚げかまぼこを観察している。気を食べるだけなので、当然、三次元では何も起こっていない。しかし、ユーダはその赤いかまぼこを自分では絶対に食べなかった。まあ、そうだよね。
又、博多へ家族旅行へ行った時のこと。明太子の製造工場を見学に訪れた。見学と明太子の手作り体験を終えて出てくると、ふいにユーダがくすんと一人笑いをした。どうしたん?
「もけもけが唐辛子の粉を吸い込んでケホッとなってる」
大好物の食い放題だったんだね。少しは遠慮するように言ってよ。
しかし、その後に向かったビール工場見学は見えない世界の御一行様はスルーだったようだ。上空に何か遊べる場所があるらしく、皆でそちらへ行ってしまった。全く、現金だ。お昼に極上の天然うなぎを張り込んだ時には待ち構えてた癖に!
せつさんが「う~ん、おいし~い! 」と感激しているとユーダがレポートしていた。グルメだからね、外せないよね、うん。
冬、大雪の降った年に近くの温泉旅館に宿泊した時も彼らがついて来たらしく、たまにユーダの脳裏に画像が送られてきていた。まるで、出張中のお父さんへのSNSのようだ。
雪の上を歩きたいとせがんだのだろう。もけもけが足(と思しき場所)に重りをつけて、厚く積もった雪の道をすっぽんすっぽんといちいち嵌まり込みながら前進している様を見せられて大受けしていた。実体は無いはずなのにイメージ画像なんだろうか。
クリスマスも過ぎているのに、今度は先にボンボンのついた赤い三角のニット帽をかぶった白くふわふわのもけもけ達が、口を大きく開けて歌っているらしい。「モロビトこぞりて」かな。
♪にゃーにゃー にゃにゃあー♪
ユーダが口真似して見せるが、どう聞いても『こねこたちのコーラス隊』なんだけど。
せつさんはよい先生でもあるらしく、もけもけ達は日々進化を遂げていた。遂には掛け算の九九を理解するようになり、外見も目鼻がはっきりするようになったという。小さくて黒目がちのつぶらな瞳とおちょぼ口でアニメキャラにいそう。
何か楽しいことがあった日に、彼らが「イエーイ!! 」と丸い輪郭の一部を伸ばしてでっかい手の形を作って親指を立て、どや顔をした。ノリノリだったそうだ。想像すると、ゆるキャラ的で「萌え」る。
私とユーダとで可愛いともてはやしていたら、あちらの皆も味をしめ、一時期ウチの異次元のリビングで『猫カフェ』ならぬ『もけもけカフェ』を開く始末だった。せつさんが仕切っていたから、絶対にカフェメニューの中に「山菜がゆ」が入っていたと確信する。
しかし、ここで新たな事実(推測ですが)が判明した。アーガイルがしたり顔で語ったところによると、どうももけもけは『ゴーレム』ではないかというのである。どこがどうとかきちんと説明してくれたわけではないが、ユーダももしかしたら…と言う。アルケミストユーダの作品かもしれない。助手をやっていたせつさんが世話をしているのかも。進化する辺り、ポケモンぽいしなあ(関係ない)。
前に書いたとおり、現在せつさんは旅に出ているので、私はもけもけも連れて行ったのだろうと思っていた。ユーダに尋ねてみると、「ここにいるかもしれないよ」と応える。え?そうなの? 誰が世話してるの? ユーダには何人も非常勤のサポーターがいるらしいし、そのメンバーかもしれないね。
もけもけの寿命がどのくらいかは知らないが、ゴーレムなら長生きかも。私がユーダより早くあちらへゆくのは多分確実なので(でないと困るよ)、もしも次元の階層が合ったら、そっちで会えると良いなと思う。
白いぽわぽわの毛をもふもふしたい。
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