第36話座敷童子とユーダ


 たびたび書いている通り、ユーダの「見えない存在との怒涛のふれあいタイム」は中学に入る頃から始まっている。

初期の頃、彼は自分の身を守るためのパワーを神様のような存在から授かった。その時期はちょうど学校が波動の低い、ユーダにとって合わない場所と化してしまっていて、彼も身を守るのに神経質になっていた。当時のお話。


 何処からの帰りだったのか、自宅に戻ろうと私と二人でエレベーターの前で待っている時……ユーダが咄嗟にぱっと後ろを振り向いた。

一基しかない小さなエレベーターの前には狭い踊り場があって、上階へ行ける階段がある。ユーダはその階段の上の方をじっと睨んでいる。

「何? なにかいたの? 」

応えがない。しばらくして、ユーダは「あ、やっちゃった~」という風な、バツの悪そうな表情を浮かべて当時傍についていたヒーロー(こちらは本物の警備組織のエリートのヒーローである)の言葉を教えてくれた。


「何をやってるんだ。あれは座敷童子だぞ!! 攻撃するんじゃない!! 」


我が耳を疑った。

はあ? ざしきわらしい~?? 何で? うちに? そんないきなり何を言ってるの?


座敷童子が階段の角から顔を覗かせてこちらを見ていたらしい。見えないものからの攻撃に過敏になっていたユーダは本能的に護身用パワーを使って攻撃をしかけてしまった。

幸い、座敷童子様は身を翻して逃げていかれたそうだ。切れ者ヒーローは即座に後を追いかけ、平謝りに謝ってくれた。


「許してくれたからよかったようなものの、大変なことになるところだったんだぞ! 」

厳しく叱るヒーロー。パワーをもらうということは一緒に責任も生じる。


 その御仁はどうもうちにいらっしゃるらしい。

座敷童子といえば、其の家を守り栄えさせる非常に良い存在として知られている。何代も続いた旅館や商家に住んでいると言われているのを見聞きしたことがある。

うちは商売をやってはいるけど、それはバブルの頃は羽振りが良かったようだけど、今はあまり景気の良い話はないんだけどな。こちらの企業努力の問題、それに店を存続させる事自体が大切なことだったりするから、其の方面でお守り頂けたりするのだろうか。

まあ、親戚一同仲がよく、一族としては人数は多いほうではあるけども。


 住み着いてくださっているのが心強いなと思ったが、ユーダが粗相をしてしまったゆえ、静かに出ていかれたとしても文句は言えない。

そう考えていたら、数日後、御本人がお姿を現された。


ユーダの入浴中、彼は壁からひょっこり現れた。

テレビで話題になるような江戸時代の子供の着るような着物姿ではなくて、ごく普通の現代の子供が着るような洋服をお召しになっており、小学生位の背格好。顔や手足は真っ黒で見えなかったそうである。


ユーダと座敷童子は少し話をした。

「いつからここにいるのと訊いたら『19年前に来た』って」

「ふうん、ぼくより歳上なんだね」と言うユーダ。(何だか笑える)


座敷童子様は家の近くに流れている川について「昔はもっと川幅が狭くて石が多かった。あの頃は船もよく通っていたよ」とかなり以前のこの付近の様子を懐かしそうにお話して下さったらしい。

後からヒーローが「ハラハラしたぞ! 」と述べていたらしいが、何も知らないユーダは自然体で彼に接していて、そこが良かったのか二回目の接触は好印象だったようだ。


 だいぶたってから、ヒーローがほっとしたように教えてくれた。

「あの人、これからもずっとここにいると言っていたよ」


確かにずっといて下さるおつもりなのだろう。去り際、いにしえの存在座敷童子様はヒヨッコの中学生ユーダにこう言ったらしい。


「『お兄さん』に幸運が訪れますように……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る