第35話ニードルの秀


 数年前のある日。ふと思いついて、暇な時にユーダのガイド「アーガイル」に訊いてみた。

「ねえ、私にも、誰か守護がついているの? 」

「いるよ」と応えがある。


実はユーダが小学生の頃に私を守護してくださっていた方々なら、姿形は知っている。

その当時近所に天然石ショップがあって、そこのオーナーの女性が「クレアボヤント(透視)」の特別な訓練を受けて修行をした人で、彼女から聞いた。

セッションではオーラの調整やスピリチュアルな観点からの人生相談などがテーマで、いくつか許された質問の中で私のガイドについて興味本位で尋ねた。

さて、スピリチュアルヒーラーであり、透視能力者でもある彼女の話によると、私のガイドは二人。

一人目はとても小柄な中国人と思しき男性で、風水の専門家だそうである。小さいのにとてつもない存在感があり、ピンと伸びたおヒゲをはやしている。

もう一人はマリア様のような慈愛に満ちたオーラを持った美しい女性で、私の母性的な部分をサポートして下さっていたようだ。


  今も同じ存在がいるのだろうか。ユーダのように入れ替わりが激しい例もあるだろうけど。

 アーガイルに私のガイドについての質問を続けてみる。

「どんな人が教えてよ。話しかけてみて」

「ええーっ……」

アーガイルは戸惑っている。ユーダがそれを漫画でいう「ジト目」で表情を作って表現するのが笑える。

ちょっと間があって、「声をかけづらい……」と、日頃おしゃべりな彼があからさまに迷惑そうだ。


「じゃあさ、外見とかだけでも教えてよ」

「白い甲冑を着ているよ。座っている。槍のようなものを持っている」


ユーダが教えてくれたところによると、純白の西洋の騎士といった風情の若干等身の短い人だそうで、「四等身くらい?ゆるキャラみたいだ」と言った。

普段は槍のようなものを手に携えたまま座り、俯いているらしい。きっと、スリープモードだ。有事にはシャキッと目を覚まして守護していただけるのだろう、いや、そうじゃないと困る。何のためについているのか。

10年前についてくださっていた老師様と聖母マリアのような女神様はもうおいでいただけないのだろうか。四等身の白い騎士って、中身は何者なんだろう。

  色々気になったので、それからたびたび、その白い騎士についてアーガイルにしつこく質問をしていくうちに、彼がどうも人ではなさそうだということがわかった。


あるらしいのだ……尻尾が。


まあ、アーガイルだってヒーローだって龍次郎だって霊体だけど龍の形をしているんだから、尻尾は別段珍しくもないんだろうが、白い騎士の兜の中身は龍じゃなくてトカゲだというのである。ドラコニアンじゃないのか、レプティリアンって昔のSFテレビドラマじゃあるまいに。私は勝手にイメージを膨らませて若干混乱した。失礼だけどもほんの少しがっかりした。

西洋の甲冑姿なら長珠さまみたいな方が似合う…と妄想したが、私がふざけた人生を送っているのを超絶美形に見守られるのはちょっと恥ずかしいかもしれない。それに神様だし、あまりにも位が高すぎてふさわしくない。ここはトカゲだろうとヤモリだろうと守護を有り難くお受けするしか無い。

そういえば、アーガイルたちだって形は龍だけど、どんな形状にだってなれるわけよね、霊体なんだから。トカゲの様相をしているのにも何かわけがあるのかも。


何度もけしかけたせいか、アーガイルはその白い騎士と少しずつ交流を持つようになり、練習試合をしたりするようになった。大変好戦的だそうだ。

腕に覚えがあるらしく、そういう点は頼もしい。


其の年の夏、用があって私一人で上京した際、歌舞伎町の近くに泊まらねばならなくなった。夜は危ないから気をつけるように周囲から言われたが、幸い何事もなく旅を終えて帰ってきた。

帰宅してから、アーガイルに私の守護の騎士が守ってくれたのかなと尋ねるとあっさりとこう応えた。

「むしろ、こっちからあちこちに喧嘩をふっかけてボコボコにしてきたらしいぞ」大丈夫かよ……


あまり話さない質なのか、ユーダを通しても会話をしたことはない。

彼が名乗らないのでこちらで勝手に名をつけた。中世の騎士の馬上槍試合で使われる特殊な形状の槍を思い浮かべ、又、私が往年のテレビドラマの必殺シリーズが好きだったということもあり(時代劇ちゃんねるとかあるよね)、趣味に走ってご覧のタイトルの通りの名となっている。


『ニードルの秀』――無口で戦好きの、私の守護である。ちなみに当然のことながら、秀役の三田村邦彦には似ていない。





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