第34話おくすりの赤ん坊


  テレビやネットのニュースでは日々、様々な国の人々の受難が報道される。

たまにユーダとそういう話をしているが、勿論、ガイドの龍のアーガイルもしっかり聞いているので教育上いいチャンスだと思ったときには、しばしば異次元の世界の話をぶっこんでくることがある。

その時もそうだった。


 戦争、政情不安、環境破壊、天変地異、貧困、悪因習などが原因となり、特に子供たちは大人社会の歪に呑み込まれ、声もあげられず苦しんでいる。大人になるまでにあまりにも過酷なさだめを乗り越えねばならないため、幼くして命を落とす子供たちも多数だ。


しかし、紛争地域やスラムなど、子供が生まれてきても幸せになどとてもなれそうもないところにも、コウノトリはやってくる。むしろ、そうでない場所より大挙して押し寄せているように思われる。


アーガイルはそのことについて、「そういう地域に生まれてくる赤ん坊の中には特殊な役割を持っている者がいるんだ」と語った。


私はふと思い当たることがあったので、言語化してくれるユーダに言った。

「スピ系のブログで読んだかもしれない。あれでしょ。地球の波動に慣らすために準備期間で戦時下の国に生まれたりする魂。数年だけ過ごして一旦向こうへ戻ってから、今度は本命の人生を送るために違う国に生まれ直すとかいう話でしょ。」

すると、「そっちじゃない」という応えがあった。違うの?


 おそらく、そういう魂もいるのだろうが、アーガイルがいうのはそれではなかった。


「彼らが生まれると、ものすごく強力な浄化のエネルギーが広がる。

その魂が存在するほんの周辺にだけ。

彼らはそのわずかな人生の全部を投げ出してそのエリアのみを浄め、

そして消滅して昇天する。

数多の魂が浄化の役割を帯びて上から次々と派遣されてくるんだ」

彼らのことをアーガイルはこう呼んだ。


『爆弾投下薬』


どことなく収まりの悪い名前のようだが、ユーダの持っている語彙を駆使して言語化しているので、読書もあまりしないただの中学生(母親の趣味で絵本の読み聞かせはかなりしたが)としてはこのようなものかもしれない。「光の浄化挺身隊」とでも言い換えればいいか。


 彼らは有志のボランティアらしい。こちらでいう市役所みたいなところへ行って希望をすれば、派遣してもらえるようだ。

ボランティアだけど対価は支払われるという。何をもって対価とするのかは教えてもらえなかった。


「一万回投下されてようやく一人前なんだぞ」とアーガイル。

しかし、この大きな数字は正確さを欠くもののようだ。強大なエネルギーを抱いて、地上へと数えきれないほどの回数投下され、この世を浄化する魂たちがいるということだけでいいかと思う。

ボランティアと書いたけれど、彼らにとっての修行なのだろう。


 「でもね、赤ちゃんのいるところには当然その子を産み落とした母親がいるわけでしょ。

短い人生と予め決められた赤子でもおそらく一生懸命育てるんだよね。

その母親の心情はどうなるのよ。可哀そう過ぎない? 」

私の問いに対して回答は返ってこなかったが、それも彼女たちの修行なりカルマなりであって、我々の窺いしれないルールで動いているのだろうと解釈している。


(アーガイルや他の存在たちも、見えない世界の全貌を語るわけではない。向こうの事情で教えてもらえない部分もある。

で、私はユーダと相談しながらそれを出来うる限り正確に記録しているわけである……)


 難民キャンプやスラムの子供たちの中に、身を捧げて世界を浄めようという天使が(これは一般的な意味の)多くいると意識すれば、何をするにももう少し世界を一つとして捉えられるかもしれない。

それと、今ふと脳裏に浮かんだのだが、確かにミサイルは(めったに)飛んでこないし、戦車も町中を行進したりはしないけど、ここ日本にも他の理由で戦闘状態の人間はいくらもいるということだ。そうとは認識されていない修羅場が多く存在しているのは事実である。


日本にも「爆弾投下薬」が生まれ出ている可能性はあるかもしれない。

小さな拳を握りしめ、大きな浄めの力を体中から発している、勇敢な赤ん坊たちが。

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