第33話それは貞子じゃなくて……


 いつだったかある夕方の話。日課のジョギングから帰ってきたユーダが、テレビのニュースを見て、聞こえてきたらしい守護龍のアーガイルの言葉を口にした。

「ああ、こいつだったのか」……こいつってどいつ?


いきさつを詳しく尋ねた。

その日道路際をジョギングしていたユーダがふと振り返ると、人影が自分の後を追ってくるのが見えた。

ザンバラ髪が顔を覆い隠していて、女性だろうということしかわからない。

「あちらの世界の人間だということはわかるんだけど」


膝をガクガクさせて、うまく歩けない様子だったらしいが、それでもついてくる。

気味が悪くなったユーダはぐんとスピードをあげて何とか振り切った。

(何だ、そのサダコは?)


ちなみに彼らが見ていた夕方のニュースの内容は、わが町のとある場所で女性の変死体が発見されたというものだった。

うちから歩いて半時間くらいのところである。


きっとその亡くなった女性の霊魂が不安のあまりユーダについてきたのだろう。

あちらから見てコンタクトのとれるユーダは目立つ存在で、彼の傍にいれば何とかなると思ったのではないか。


 やがて警察の捜査が進み、犯人が逮捕された。

犯人は男性でわが町とは縁も所縁もなく、殺害した女性の遺体を遺棄するためだけにはるか遠方からわざわざ車で運んできたのだと判明した。

付近住民を恐怖に陥れたこともセットで、全く許せない。


ユーダが見捨てて逃げ切ったのは気の毒だったけど、彼は見えたり聞こえたりするだけで、どうにもしてあげられないからねえ。

被害者の女性の魂がどうなったか心配でユーダに頼んでガイドのアーガイルにたずねてもらったら…「死神が連れてったんじゃないの? 」とさらっと応えたそうだ。

非業の死であっても、ちゃんと連れに来てもらえるようである。


 じつはこの見えない守護龍は昔、それに近い仕事をやったことがあるらしく、そういう連中とも知り合いが多いようだ。

一度、ユーダにその筋の任務に携わる友人を呼び込んで紹介してきたことがあったっけ。

まあ、一般に言われる本格的な死神ではなくて、あの世へ魂を導く仕事をしているだけなんだろうけど、ユーダの通訳することと口調から、暗めで理屈をこねるタイプだと思った。

深入りしない方がいいところもあるので、話していた内容は聞き流した記憶がある。


もしかしたら、アーガイルがユーダ自身には走って逃げきれと言っておいて、密かに死神を手配したのかもしれない。

ともかく、こちらのサダコは迷わずに無事に、その魂の安らげる場所へ行って欲しいものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る