第32話真夜中の問答


 深夜、勉強をやっていたはずのユーダが、PCの前の私のところへやってきて、ふいに言った。

「アーガイルたちと話すことを長い間やめていると、ネガティブな考えが頭の中に入り込んでくるんだ。」

つながりを持っていた方がいいように出来ているのだろう。アーガイルも、自分以外に50人くらい(!)サポーターがいると語っていたし。

護ってくれているんだろうね。


するとアーガイルが「チュートリアル(準備期間)のうちに死んだりするんじゃないぞ」とけろっとのたまった(縁起でもない)そして、続けた。


「この三次元は、自身が思った通りの存在になれるように出来ている。ネットでいうところのアバターのようなものだ。

皆んな、好きなアバターを作っているだろう?何にでもなれる。それを理解すれば簡単だ。

ここまで言えばわかるね? 」


この辺で普段のアーガイルぽくない簡潔な内容と、クールな物言いに「あれ、アーガイル何処かへ修行にでも行ってきたの?ステージが上がったんじゃないの? 」と私が何気なく語りかけると、口述化していたユーダがはっとした顔をして、「ごめん。途中から長珠様が入って来て代わってしゃべってた」と答えた。

「あ、そうなんだ。それにしては存在感が違うね」

「電話で喋っているような状態だよ」とアーガイル。

お忙しい身だろうに、いつもポイントを押さえてご指導下さって有難い。


 ちなみにそのあと、アーガイルは自分の特殊性について楽し気に語っていた。

メモを忘れてしまったので不正確かもしれないが何でも、無から生まれてきた存在であるとか。

神殿で或る『邪神』の体から自然発生的に生まれ、神官たちに育てられたようだ。(この辺り、一緒にしては不敬かもしれないが、古事記を思い出した。イザナギが禊をするとそこから神様がたくさん生まれてくる場面があった。)

しかし、モノのように扱われ耐えかねたアーガイルはそこを脱出した。彷徨っていたところを呼び止められ、持ち前の打たれ強さを買われて仕事を頼まれ、さまざまな役割をこなして今に至るようである。

戦闘能力も高いようだけど(最初に来ていたヒーローには及ばないかな)、自分の売りは「拘束力」だと言っている。対象者を捕まえて身動き取れなくさせる力には自信があるようだ。


また、彼らには寿命が無い。長い間生きられるだけ生きて、自分が納得するある時期になったら、自分で名乗り出て「死」を選ぶという。

「死」というか「消滅」に近いのかな。彼らには永遠の魂はないのだろうか。

いよいよ、アンデルセンの「人魚姫」の記述は真実なのかなと思えてきた。あれは三百年生きると、泡になるんだっけか。アーガイルたちはもっと長そうだけど。


アーガイルやヒーローたちからも、すべてを説明してもらっているとは限らない。

ところどころ微妙に変えてある場合もある。


 ユーダにも何らかの使命があるようである。

冒頭に書いた問答の後、アーガイルは待ち合わせをしていたらしく、名も知れない「友人」が其の場にやってきた。

アーガイルと私達の会話を聞いていたらしいその友人もユーダを一方的によく知っているようだったし、ユーダの大勢のサポーターの一人かもしれない。

彼はあっさりと言っていた。

「目的はそんなに深刻なものじゃない。あまり気負わないで生きればいい。自分にできるだけでいいんだよ」と。


次々に同様の役目を持った魂も生まれてくることになっているそうだ。

初めに生まれてきたのがユーダである。


だからユーダは、彼らに『最初の希望』と呼ばれている。


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