第31話ふくろうとシャープペンシル
ユーダは修学旅行で京都へ行ったが、帰宅した彼が、ぽつぽつと語ってくれたことがある。
とても心ひかれるみやげものがあったそうだ。
嵐山の近くの商店街にふくろうグッズだけを扱っているお店があって、そこで出逢った。
白くて小さな、ガラス細工のふくろうだった。
それがユーダには「命がけで作られた」と感じられたそうだ。
そのふくろうを作った誰かは、命がけともいえる熱意をこめてその作品を作った。
土産物だし、愛好家のコレクションになるほどの芸術作品ではないけれど、ユーダにとっては、「心の奥がじーんとなるような温かさのある熱意」がビビッと感じられる作品だったのである。
職人の熱意をこちらが読み取るのではなくて、向こうがダイレクトに伝えてくるような状態だったそうだ。
買おうと思ったらしいが、もともとマイペースのユーダの事、その店へたどり着くまでにかなり時間的にオーバーしていたらしく、同じ班の女子にせかされて断念したそうだ。
きっと縁が無かったのだろうね。そのふくろう君は誰か別の人と出会うことがすでに決まっていて、その人を待っている最中だったのかもしれない。
この話を私が思い出したのは、最近、似たようなことがあったからだ。
シャープペンシルを無くしたユーダは新しいものを買おうと文房具屋へ出かけた。
しかし、お目当てのものが品切れで、あちらこちら捜し歩いた挙句、あるコンビニで、良さそうな商品を見つけた。
「安いんだよ。二百円しかしない」
「でも……」とユーダは続けた。
その二百円のシャーペンに込められた熱意がすばらしかったのだと。
「たくさんのビルが建ち並んだ都会で生まれた熱意」だと表現していた。
大都会のエネルギーを感じ、大きな会社で開発された製品にこめられた、作り手たちの情熱を感じたのかもしれない。
ちなみにそのシャ―プペンシルはパイロットの「OPT」という商品だった。
手持ちのラバーグリップと組み合わせると、とても使いやすく、今は彼のお気に入りとなっている。
「詳しくはわからないけど、どうしてもこれを作りたいんだという気持ちが伝わってくるんだよ。このシャーペンは、開発に関わったある人の、初めての仕事だったのかもしれないね」
また、「いい会社なんだろうね」とか言えばいいものを思春期特有の面倒臭さで、「絶対にブラック企業じゃないよ」と回りくどく褒めていた。
その品物に込められた思念や因縁を、触れて読み取ることの出来る力がこの世には存在し、『サイコメトリー』と呼ばれている。
その品物のみに感じる痕跡を読み取ることと、工業製品であるシャープペンシルを対象にすることとは違うかもしれないが、少なくともユーダはその商品を通して作り手たちのあふれるモノづくりへの情熱をしっかりと受け取っている。
ユーダの特殊な感覚はこういう部分にまで広がっているようだ。
何度かこの文章でも触れているけれども、ユーダは周囲の雰囲気にのまれやすい。
負のエネルギーを受け止めて、混乱して困ることもあったりする。
大人になるまでにコントロ―ルの方法を、受け流す大河のような心と強い鎧とを手に入れて欲しいと思い、こちらも試行錯誤しながら、見守っている。けれども……
土産物のガラス細工に「職人の精魂込めた心に響く情熱」を感じ、
コンビニのシャーペンに「老舗企業で多くの人の手に寄って作り出される情熱」を感じる、
その感覚は持ち続けて欲しい。
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