第28話見えない世界の彼らの消息


今までこの作品に登場した見えない世界の存在たちについて、この辺で現在の消息(近況)を書きたいと思う。


最初はせつさん。ユーダの過去生での奥さんで、ユーダを探してこの世界に導かれてきた人である。山菜の研究家でお料理のプロでもある。


ある年の五月ごろ、夜にユーダがふいにくすんと笑った。唐突だったので「どうしたん?」と尋ねると「今、せつさんがね…」と教えてくれた。

季節に合わせてお歌を歌っているらしい。


『夏もちっかづく、はちじゅうはちやっ!』


――しかし、映像の中で摘んでいるのは、お茶の葉ではなく山菜だそうである。

さすがにブレないな 笑。


実は彼女、最近はこちらにいない。どこか別の世界に知り合いがいるらしく、そちらへ行っているようだ。

ああ見えて(私は見えないんだけど)アクティブなひとで、常に色んなことをやっている。

カジキを釣っていたり(漁師か!!)、山菜スープを作っていたり、料理本を書いてあちらでは有名人だとか。

ユーダがあちらの世界へいるときの、アルケミストユーダモードでの研究助手さえ務めているくらいだ。


 そういえば、数年前の冬。夕食のおでんを食べていたユーダが、しばらく音信不通だったせつさんが今手紙を送ってきたと言った。

便箋が一枚ひらりと届けられるビジョンが見え、そこに一言「大根のおいしい季節になりましたね。」と書いてあったらしい。

諸々の事情でつながりにくい時、彼らはこういうまるでメールのような手段を使うのである。ユーダの味覚を辿ったのかな。

私は彼女にお料理のあまり上手ではないお母さんとして認知されているので、(そりゃあ、相手はプロですからねえ)おいしいと言われ、少し嬉しかった。褒められたのは旬の大根だけだったけどね。


せつさんは肉体をもたない存在だけれども、本当にグルメで食べることにこだわりがある。

連絡が途絶えてからしばらくして、ユーダがアーモンドチョコレートを食べていると突然に、せつさんが割り込んできた。

「私も頂いていいですか?」あれ、久しぶりだね。

そして、ユーダが彼女の口真似をする。「う~~ん、おいし~~いい」とうっとり。


私はまたせつさんが戻ってきたのかと思っていたら、ユーダが言うには、「映像が薄い」のだそうだ。

連絡をしないと心配されると思い、映像をストックしているんじゃないかと推測していた。アーモンドチョコレート限定の??よくわかんないなあ。

(今文章をユーダに読ませてみたら、前にアーモンドチョコを食べた時にいいなと思って、この映像を流してほしいとアーガイルに頼んだのだろうと言っていた。

ってか、ユーダはアーモンドチョコはそんなに食べないぞ??)


まあ、ユーダがこの世界を終えるまでまだあと何十年もあるんだし、好きに過ごして待っていたらいいと思う。


 次は「厄病神さま」。ユーダが試練を乗り越えた時に現れねぎらってくれる謎の、おそらくは神様。

いつも慈愛深いサポートをお授け下さる、銀色の髪の超美形の神様である。


このお方は当然ながらあまりひんぱんにはおいでにならない。

なんだけど、ある日、夕食時に突然お出ましになられた。

ユーダによると、この御仁の登場の際には、『いつも家中の窓から真昼の如き光が差し、どこからともなくハープの妙なる調べが流れる』らしいのだけど、今回はわりに普通に出現されたらしい。

いつもお召しになられているグラデーションのボーダーのTシャツにデニムにしてもそうだけど、本当はすごくきらびやかに盛装をされているのが、着替えてこられているのかもしれないと言う。

「お忍びって感じ?」とユーダ。

登場時のオプションについてはご当人がさらりと「省略した」とおっしゃった。


 ご来臨の時は、ちょうど労働時間と余暇について話題にしていて、新時代の働き方について簡単なレクチャーをして頂いた。

就業時間に縛られない労働の仕方をしている人々がこれから増えてくる。例えば人と人の間を取り持つような、マッチングというのか、そういう仕事など、時間よりも内容で勝負する人たちのお話。

才能がとても必要な感じを受けるけれどね。他にもお話しいただけそうだったけど、家人が色々騒いだりしていたので、気をそがれたのか、すうっとお帰りになった。

失礼をしました。


ちなみにこの「厄病神」という呼び方は、ご本人の「人間にとって私はそんなようなものだよ。」という自己紹介に基づくものであるが、あまりに失礼な感じもするので「他のお名前を」とお願いしたら「じゃあ、長珠(ナガタマ)ではどうかな」と言われた。由来はわからない。

それで、「厄病神さま」は、その後「長珠さま」になった。

ユーダによると、あちらの世界には一文字で勾玉を現す言葉があり、それの同義語に近いらしい。しかし、少し違ってもいて、もともと漢字が苦手なユーダは混乱していた。


 そして、この作品初期の頃に出てきた主君のお墓を警護しているお侍さん。

その後もその墓地を通るといるようで、挨拶をして、世間話をする仲になっている。

ある時、ユーダが彼にとって非常に興味深い場所である「お稲荷さん」に行こうとしていたら、「おお、お稲荷さんに行くのか?気をつけてな」と声をかけてくれた。

何も言っていないのに。


また、その墓地には、昔亡くなった子供の魂がいて、色々話をしたらしい。

「明るい子たちだったよ。妖怪ウオッチほどじゃないけど。昼間に出てくる人たちは悪い人はいない。ただ上へあがっていないだけ。」

しばらく話して彼らから「もう少しここにいない?」と誘われ、「う~~ん、僕まだ子供だし、色々経験したいし。」と応えると、「そうだよねえ」と理解を示してくれたという。何だか怖いけど笑える。

生きている存在で彼らと普通に話が出来る人間はそんなにいないだろうし、ひき止めたいのもわかる。


 最後は近所の神社の龍神様。

実はこの御方とユーダはその後コンタクトがとれない。

一時期は神社の前を通るだけでも、上からお声が掛かっていたのに、ある時を境にふっつりと途絶えた。

その当時、ユーダは波動が下がり気味で、色々問題があったので、彼もそのせいで何か悪いことをしたかと気にしていたが、私はそんなことで龍神様がへそを曲げられるはずがないと言って聞かせた。

アーガイルも「だって、もともとしゃべる間柄じゃないんだよ。人間と神様って」とコメントしていた。……確かにそうだね。


昔ユーダがよく話していた頃の龍神様は、今の宮司さんが続けられる間はここへ留まるとおっしゃっていた。

その後はとお尋ねすると、「そなたのところにでも行こうか」とジョーク(だよね?)を言われていたようだ。


しかし、龍神様の神社の隣の空き地に突如としてビルが建った。

とても大きなビルで、当然ながら神社は見下ろされてしまい、その上、圧迫感が半端ない状態になってしまっている。

おそらく誇り高い龍神様はそれがお気に召さなくて、ご昇天になったのではと思う。

神様のことだもの、人間の一小僧っ子にいちいちサヨナラなど言われるわけがないよね。お心のままにだね。


 ユーダの話す世界観から見ると、真夏によくあるTVの心霊特集も結構なステロタイプに見える。

幽霊や怨霊にかかわるのはやはり怖いし、自分がそこまでよくわかっているわけではないけれど、見えない世界の奥深さはその辺には無い。そう思う。


私が実際に感知できるわけではないので、飽くまでも気がするだけだけども。

あちらは、我々の思考の及びもつかない独自のダイナミズムで動いており、空気が震えるほどの繊細さでこちらの感情に反応して、がらりと様相を変えるように感じる。

いつか、そういう目に見えないことが人々にもっと広く知られるような世の中になることがあるだろうか。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る