第27話 天空のスフィンクス
そのころはそういう時期だったのだろう。
夜遅くに塾から帰る途中に、ユーダはよく色んな存在に出くわしていた。
ユーダの帰宅時に自宅の玄関でモニターに映った彼の顔を見て、何か妙なものを
連れている気配が無いかどうかを探るのが私の日課だった。
その時も妙だった。
「何か来てるね」というと、「変なものじゃないよ」という。
ユーダが夜道を急いでいると 風がぶおっと吹いた。
突然大きな龍が現れ、「おお、こんなところで会えるなんて!! 」とユーダを
相手に勝手に感動の再会を始めた。
「おやっさんじゃないですかああ!! おやっさあん! 」
・・・おい、ユーダは中学生だよ・・・
「こちらにくる視察があって、会えたらいいとは思ってたけど、よかったああ……」
と、その龍は一人で喜んでいる。
聞いていた私だけではなく、ユーダ当人も話が見えなくて面食らった。
でかい龍は自分の事をフィルドと名乗った。ユーダの事を「アルケミストのおやっさん」だと言って譲らない。
アルケミスト??一般的には錬金術師のことだろうが、彼の言う感じでは科学者とか
そんな感じかな。
過去生での事かと思ったらそうではない。どうもあちらの世界での話のようである。
中間世のことかな。
フィルドは「おやっさん」の弟子だったそうである。
ユーダは頼もしいお師匠さんだったそうで、是非今生でもそうあって欲しいものだ、
大きな龍は色々賑やかに話して、又来ると言いつつ、賑やかに帰って行った。
それで、そのあちらの世界でのアルケミストユーダの発明品の筆頭が今日のタイトルのテーマである。
フィルドが現れる前の話だが、ユーダが変な映像が見えると言ってきたことがある。
向こうの世界の上空に、ぽっかりと巨大な物体が浮かんでいるという。
とても大きく、ゴツゴツしている。形はスフィンクスに似ているが、しかし……
「顔はね、プレデターなんだよ」
プレデター?それはシュワルツネッガーの映画に出てくるごっつい四角い顔の宇宙人
の事か。面妖な。
詳しく説明すると、全身が銀色と白の、見るからに金属製なつくりの形状をしている
ようだ。その不思議な空飛ぶオブジェは明らかに意思を持っている。ロボットのよう
なものらしい。
向こうの言い方で言えば、『ゴーレム』だ。とても巨大で精巧な。
それが、アルケミストユーダの発明品である。
名前は「ラジェルド」。
お弟子さんの龍の話では自分で自分のメンテナンスまで出来るレベルだそうで、
勿論、おしゃべりもできる。あちらの自宅の警備などをやっていたようだ。
今ユーダと話をしながら文章をまとめているのだが、現在の彼の相棒、龍のアーガイルによると、この「ラジェルド」のことを天使レベルの仕事ができると語っている。
「言わば、『機械天使』だな。」――すごいものを造ったねえ。
フィルドとの出会いがあってから、しばらくして当の「ラジェルド」とコンタクトがとれるようになった。
当時ユーダのそばにいた者たちや、私とも少しコミュニケーションをとった。
自己紹介をするときに「お役に立てると思いますよ」と言ってくれ、何故か趣味を
聞かれたことを覚えている。
しばらくの間は、こちらの世界の上空にリンクしていて、うちを守っていたようだ。
その頃はなぜか、ユーダの周辺が騒がしく、襲撃をよく受けていた頃だった。今は
いるのかどうかわからない。
ある時、ユーダが夜半に家の近所に何か不穏分子がいるのに気づいたが、次の瞬間、
はるか上方から矢のようなビームが降ってきて、あっという間に焼き尽くされたそう
である。ラジェルドが粛々と任務を遂行していた。
ここはホワイトハウスかよ。
こうなってくると、どこの世界の延長線上かわからない。まあ、物語だとでも思って
頂けると幸いだ。
大丈夫、私は正気である。
高性能ゴーレムのラジェルドは評判となった。ユーダがこちらの世界へ来るまでに、量産型が開発され、あちらの世界に配備されている。
ユーダに尋ねると「タカマガハラの周辺の森の中」に配備されているそうだ。確実に
『高天原』のことだろう。神界?ってことかな。
ユーダにとってよいサポーターだったようだが、他に色々忙しく、そんなに便利に
使えるわけではないようだ。
(その万能のラジェルドが、一度だけ私の世話を焼いてくれたことがある。しかし、
それはまた、別の話になる)
「ラジェルド」というカッコイイ名は本当は向こうの世界ではそんなに凝った名前
ではないという。
ユーダに言わせると、「山田太郎」とか、花子とかそういう感じの印象らしく、
どうもアルケミストユーダはネーミングに拘らないタイプらしい。
「ラジェルド」本人が気に入っているかは不明である。
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