第26話 きっとサイトーさん!
我が家の風呂が壊れたときのお話。
某メーカーのシステムバスなんだけれど、そんなに年数は経ってないはず。
お湯張りモードにしてもなかなかお湯が溜まらない。
そのうち、異常を告げる機械の声が流れて、様子を見に行くと、お湯は底から
数センチの量なのに追い焚きモードになっている。アブナイ。
風呂の栓は浴槽の縁にあるボタンで開け閉めする方式で、閉まっている。
給湯機能の故障かな。
湯量を確認する機能も壊れているのだろうか?水無いのに焚いちゃってるし。
風呂栓が開いているときは、ちゃんとそういうアナウンスをしてくれるから、
どのくらいの量のお湯を蛇口から出したかチェックしているはずだよね。
ううん?
家族で風呂を見に行き、悩んでいると(笑)、ユーダがふと「せつ」さん
の声を通訳した。細く高い声を真似る。
「『サイトーさん』を呼べばいいのでは? 」
そう、うちにはメンテナンスの担当者がいる。見えないエンジニア。
人呼んで「サイトーさん」……ただの個人名だけど。
ユーダのせいで我が家は色々な存在が出入りをし、ちょっとした社交場とか
中世のサロンのような様相を呈しているので、おかしな連中が入って来ないように、
ガードを固める必要があり、彼が呼ばれた。
色んなところでしょっちゅう作業をしているようだ。まあ、私には見えないけど。
一度、キッチンの流しで料理中に何だか妙な気配を感じて「この忙しいのに何だ!!」
と思ったら、補修作業をなさっていたらしい。
次元が違うのでぶつかることはないけど、やっぱり気配は感じるわけだ。
話は逸れるけど、いつかお昼間に誰もいない自宅へ戻った時、誰もいないはずなのにものすごくざわついていた。着替えもできない感じのパブリック感。
生き物は飼ってる亀と鉢植えしかいないのに。
その夜、ユーダに尋ねて謎が解けた。
少し前にここで勝手に「ゴーレム(高性能のアンドロイドの様な物)」の作動実験をした学生さんがいて、厳重注意を受けた。当然だ。人んちで何やってるの?
そこで、罰として、完成したゴーレムの作動公開実験を家でやることになったそうだ。
・・・?
どして? しかも、家でえ?
私が帰宅したときは、ちょうど発表の最中だったそうである。人が集まって研究発表
がなされている横で、残り物で昼食をとる私……。
いや、見えないからいいけどさ。
実はユーダの過去生の一つに、というかあちらの世界へ行った後の姿に研究者というのがあって、彼もゴーレムを作っていたらしい。
(かなりの高機能で、今も家を守っているらしいのだが、それはまた、別の話ね。)そんな関係で若い研究者に寛容なのだろうね。
私もよくわかんないのだが、そういう事にしておく。
で、差し迫ったお風呂のことだ。密かに「サイトーさん」に頼んだら楽そうだなあと思ったのだが、三次元の事はいくら何でも無理だろう。
次の日、普通に三次元の業者さんをお願いした。
困っているときの素早い対応はありがたい。すぐに来てくださり、給湯設備のチェックに入った。
でも・・・しばらくいじった後で「どこにも問題はない」とおっしゃる。え?
丁寧で親切な業者さんで、また異常が出るような事があったら呼んで下さい、今月中にまた出張することがあっても、今日一回分の料金のみで修理しますよと言ってくださった。
連絡先の名刺を給湯設備のパネルの下に貼り付け、待ち構えていたのだが、幸いなことにそれ以降、全く問題なく風呂は沸き、湯量もカンペキ、カイテキだった。
次の月になってようやく、一回だけの出張料金の請求書が送られてきた。ウン千円也。
しばらくたって、家人がぽつりと言った。
給湯設備の故障じゃなくて、風呂栓が緩くなってたんじゃないのかと。
手元のボタンで操作する方式なので、ボタンを押せば閉まってるかどうかまで確認しない。
風呂栓を直に手で押して隙間の無いことを確認しないと駄目だというわけだ。
あ、それか!
やってない、わたし、そこまで、やってない!
焦って業者さんを呼ばずに、色々試行錯誤しつつ様子を見ておけばよかったかもしれない。
若干後悔しながらも、ふと思った。
もしかしたら、「サイトーさん」が人知れず修理してくれたのかも。
そう思うことにしよう。
ウン千円は三次元での確認料だな。
だったら、勿体なくない。うん――と無理矢理(笑)。
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