第24話真夜中の訪問者は故人

 その年は、親戚を二人も続けて亡くした年だった。


 一雄叔父さん(仮名)が亡くなった時、ユーダも告別式へ出席するつもりで

いたのだが、準備をしている途中で具合が悪くなり、寝込んでしまった。

霊感体質の人間にはままあることである。色々な存在がいて「死」が

身近な場所へ行くときに拒否反応が起きるのだろう。

頭を抱え、半泣きの状態で、全く動けない。

結局、彼だけ失礼させてもらうことにした。


叔父は、友人宅で突然倒れ、病院へ運ばれたが間に合わなかったらしい。

突然のことで、家族は皆気が動転していた。

「昨日、家族みんなで集まって、子供たちも孫たちも一緒に食事をして、

記念写真を撮ったの。それが、遺影になるなんて」

叔母はショックを隠せないまま、それでも気丈にふるまっていた。


叔父は、人にも自分にも厳しく、又気難しかった。身もふたもない表現で

ズバズバ言うので、付き合うのに人を選ぶタイプだった。

しかし、その割には友人にも愛妻にも良い子や孫にも恵まれた人生だったと思う。


 若くはなかったとはいえ、急な不幸は周囲の心の準備が出来ていない分堪える。

火葬場から精進落としまで出席して帰宅後、家事を済ませ、重い心持で

色々考えていると……


いくらか快復したユーダが私のところへやってきて、普段彼が会う事の

少なかった一雄叔父の人相を尋ねた。答えると考え込みながら言う。

「今、そのヒト、ここに来てるよ。」


夜中にぶっ飛んだ!

「ええーっ!! 」


ど、どうしよう。亡くなったばかりの人に来られても、どう対処すればいいの?


「迎えに来られるまで、ご自宅で待っていてくださいって言ったら? 」

「あ、せつさんが……」


ユーダの過去生で奥さんだったせつさんがお相手をしてくれているようだ。

うう、助かる。

「山菜がゆをご馳走してあげてる」

ユーダが二人の会話を訳してくれる。

「七草がゆか…食べた事無かったなあ」と、叔父。

「これ、七種類以上の山菜が入ってるぞ」というのは彼の感想であろう。

「12種類入っています」

と、今にも一つずつ説明を始めそうな山菜オタクのせつさん。


 叔父は一息ついて、しみじみと語っている。

「こんなに突然死んでしまうなんてなあ。俺も驚いたよ。でも、まあいいよ。

もう充分生きたからね」


そして、告別式は出来るだけ、本当に悲しんでくれる内輪の人々だけでやって

欲しかったと述べた。よく知らない人々が付き合いで形ばかり参拝しているのが、

あちらからはよく見えるのかもしれない。何となく一雄叔父さんらしかった。


せつさんがこれからのことを彼にレクチャーしている。あちこちの世界を

放浪してきただけあって詳しいようだ。

私たち一般の人間は死の世界へ旅立った者に対して、直接は何のアプローチも

出来ない。普通はね。

でも、せつさんのおかげで、叔父も助かっただろうし、親戚のユーダが

死んだ後の自分と話せると知って、少しは安心したかなあなんて思っている。


 やがて、お迎えが来たらしく、叔父はユーダに「体に気を付けるんだよ。」

と言って、誰かに連れられて去っていった。


妻も子供たちも地に足の着いた人間だから、大丈夫だと思ったのだろう。

自身の急な死をあっさり受け入れて、淡々とした様子にどこかほっとした。


ただ、彼のその様子を叔母や子供たちに伝える事が出来ないのが、

残念でならないのだけど。

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