第21話 アカシックレコード~時空を超えたアプローズ

 実は中学校時代のユーダには『アカシックレコード』を読める時期があった。


「時期があった」と書いたのは、本人の波動のバランスの悪さで

入れなくなってしまうことが多かったからだ。


情報の精度もあまりよくないので、例えばテストの時切羽詰まって

辞書のように引くなんてことは到底出来ない。

(アカシックを読める方々が皆そんなことをやっていらっしゃるか

どうかは知らんけども。)


彼がアカシックレコードに入れると分かったとき、これで受験も安心だと

うっかり思いそうになった。

あまりに恥ずかしいので、黙っておく(書いとるやん。)。


 ちなみにアカシックでクレオパトラを調べると、

「鼻の低いダンミツ」に似ているそうである。

世界三大美人のクレオパトラの容姿ってダンミツより落ちるの?

「だって、クレオパトラは美人だからっていうよりも、賢いからって

理由で歴史に残れたようなものなんだってよ。」

はあ、さいですか。

まあ、あの前髪ぱつんの黒髪おかっぱも似合いそうだよな。ダンミツ。


アカシックレコードがちゃんと読めてるかどうかの確認に

「本物のイエスキリスト」のポートレートを調べるといいらしい。

宗教画にあるような面長の哀しそうな顔のハンサムな白人さんが出てきたら、

それは違っていて、キリストが生まれた地域や人種を考えると肌の浅黒い方で

正しいのだそうだ。

詳しくないのでこれ以上はよくわからないけど、ユーダが調子がいい時に一遍

読み取らせてみたら、一般的なイエスの肖像は出てこなかったので、やっぱ

そうなんだろうなと。


 ユーダが身の回りのガイドや、アカシックの図書館?の司書さんたち

(こんな風には呼ばないよねえ)から聞いたことを総合すると、

世の人々の中には、死んだ後で自分の今生の歴史絵巻にタグをつける人々が

いるそうな。後進のためにということで。


例えばベートーヴェンだったら、第九の初演で耳の聞こえない彼が

促されて振り返り、観客の喝采を知った瞬間とか。

エジソンだったら、99パーセントの失敗を体験して諦めない様子とか、

電球に明かりがついた瞬間とか。

自分の人生で公開してもいい場面にタグをつけ、おそらくだけど秘して

おきたい部分は見られないようにするのだろう。

未来のアカシックレコードリーダーたちが学びに入って来やすいように。


 それならば、である。

ここからは私見である。


アカシックレコードが、森羅万象を網羅した記録であるならば、

おおよそ、誰からも顧みられない名演など存在しないことにならないかい?


誰にも知られない名場面は存在しない。

だって、それはすべて記録されているから。

ある種の特別な人々は、望めばそれを見ることが出来る。


 世の表現者たちは、もしも、自分が大器であるという確信があれば、

どのような悪い環境であったとしても、出来うる限りの最高の演技をすべきである。

たとえ、観客が一人もいなくとも、時代が悪かったとしても、誰からも認められない

としても。


空っぽの客席に向かってただ演じればいい。精魂込めて。

そして、あちらへ行った後で、その場面にタグをつければいい。


きっと、遠い未来から(あるいは過去から)来た、アカシックレコードリーダーたちが時間差で客席に満員になる。

その、時空を超えたアプローズを受け取ることは出来ないけれど、見えない満員の

観衆たちの歓呼の叫びくらいは、こちらにいたままでも、想像できるだろう。


演じるときにはどんなことでも支えにすればいい。あらゆる力をかき集めて、

最高のものを表現するために、彼らは生まれてきたのであるからだ。


 この世界は、「表現者たち」にとってある意味優しい創りになっているのかも

しれない。


そう思うと、たくさんの見たい場面が浮かんでくる。私はアカシックには入れない

けど。

大好きなあのお方の残っていない演技の場面とか。


許されるならば、心の奥にずっとしまっているあの永遠に大切な一瞬をもう一度。

いえ、それはもう、揺るぎなく心の中に焼き付けられているんだけれど、

それでも、もう一度味わいたい。






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