第20話 ちっちゃなちっちゃなチンピラ坊主

 魔ハンターサカガキ氏の話には後日談がある。


ある時、私は遠くから聞こえてくる何かに気づいた。

私の肉体の耳じゃない方の、言うなれば心の中の耳に何かが反応している。

こんな感覚は久しぶりである。


前に、この心の中の聴覚について困って(これは幻聴とは違うんだよな)

近所の天然石ショップのオーナー兼スピリチュアルヒーラーの女性に

クラウンチャクラの調整をしてもらって助かったことがある。

私は視覚は全く普通の人間なんだけども、こういったところはやはり

ちょっと特殊なのかなと今更再認識する。(今頃気づくか。)


 それは、どこか遠い遠いところからかすかに聞こえる声。

大声でがなりたてている。


「っざけんな!てめ!!出せっつってんだろ!!何さらす!!

なめとんか、コラ!

わりゃー、ボコボコにすんぞ!!!」


……言葉荒くて申し訳ない。


何かそんな感じのチンピラの罵詈雑言が小さく小さく聞こえてくるのだ。

何だこりゃ?


唐突過ぎて面食らう。私はそういう人たちはあまり好きではなく、

接点もないのに、どうして繋がったんだろうと悩んでいると、ユーダが

すうっとそばに寄ってきた。

「サカガキさんが来ているよ。話したいことがあるんだって」と言う。

「あらそう。どうしたの?」と訊くと……


サカガキ氏は「あなたの心の中の声の原因はきっとこれだろう」とおっしゃった。

ユーダが虫かごの中のものを見せてもらっている。

「今晩捕えた魔が、昭和の頃のチンピラの姿形をしていて、そいつが大声で

騒いでいるんだよ」


虫かごの中に小さな魔が一匹入っている。グリースてかてかのリーゼント

ヘアーで、改造しまくりの学ランを着て、眉は勿論ほっそーくて……それで

怒り狂って喚きたてているらしい。


「てめ、しばきたおすぞ!!! 」

その虫かご、遮音性が高いのねえ。


 「これから、上に連れてゆくから、すぐに収まるから心配いらない」

サカガキ氏はそれをわざわざ教えて下さったのだ。


「あれ、ハープの音? 」とユーダ。

いつものごとく、ハープの音のBGMとともに重厚なドアの開く音がして疫病神様が

おいでになった。サカガキ氏を迎えに来られたようである。仲がよろしいんですね。


お二人が姿を消すと、ちっちゃなチンピラ坊主の悪態も聞こえなくなった。


 ちなみにサカガキ氏は伝説の魔取り締まり人とされているそうだ。彼が近づくと、

魔はみんな身動きがとれなくなる。そして、彼が担当した区域はしばらくの間、

魔と縁を切ることが出来るという。


ここからは私とユーダの推測。疫病神様と親しいことや、その特殊能力からいって、

サカガキ氏は太古の昔から存在する神様のおひとり(一柱)ではないかと思われる。

大昔から万物のためにお役目を果たしていらっしゃる。

ただの推測に過ぎないけれど、そんな気がする。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る