第18話 パラレルのユーダ

  ユーダは宵っ張りだ。わたくし冴月も宵っ張りなので、説教をしても

説得力がない。

んだけどもとりあえず、夜遅く、風呂上がりのユーダにとっとと寝ろと

言って聞かせている真っ最中に……


誰かが彼に話しかけてくるという。窓の外から?


ユーダが心の中に映る映像を見て「これ、ぼくだ……」と言った。

疫病神様の例のアイテムでチェックする。白でも黒でもない。

「やっぱりぼくだ。同じ顔をしている」ドッペルゲンガー?違う。

パラレルだ。パラレルの世界のユーダが来ている。


夜の夜中にキッチンのダイニングテーブルで、座っているのは二人、

語り合うのは実は三人という変な会談が行われることと相成った。


彼はうちのユーダよりも大人びた感じの物言いである。


そういえば、依然ヒーローか誰かから聞いたことがある。

無数のパラレルワールドそれぞれにユーダがひとりずつ存在するが、

(ユーダに限らず、私もおそらくみんな誰でも。)

その中で、一人だけあちらの世界に行ってしまったユーダが

存在すると。自分であちらの世界へ行くことを選択したという。


その時は意味がわからなかった。しかし、このパラレルのユーダはきっと

そのユーダなのだろう。

彼の言葉を「うちのユーダ」が読み取って教えてくれる。


  実は彼や「うちのユーダ」とは又別のパラレルワールドのユーダがさっき

消滅したらしい(!)

それで心配してうちへも様子を見に来たのだ。

「君は疫病神様が守って下さったおかげで、危ないところを助かったんだ

よ」と言われた。

ユーダは無自覚のようだが、以前一つ目の妖怪除けに役に立ったお守りも

必ず身につけているし、

本人の気が付かないところで、危機をくぐりぬけたりしているかもしれない。


「おまえはこの世界をどう思う!?」

{どうって――}


急に言われても、中学生のユーダも応えようがない。

あちらの世界へ行ったユーダが吠えるように言う。

「いいか、光に向かっていくことがおまえの未来を拓くことになる。

迷うんじゃないぞ!わかったな!」


 彼は様々なことを話してくれた。

遥か遠い荒野に立って、そっくりなのに険しい顔つきで、少し年を取っている

ユーダが思い浮かんでいる。

彼の認識している世界は、我々のそれと違い、ジャングルのような弱肉強食の

世界である。あちらの目に見えない世界に限らず、他のユーダが存在するすべて

のパラレルがそのようであると、彼は認知している。


血煙のたちこめる戦場から、ひと時だけ姿を隠して、私たちにコンタクトを

取ってきたように思われる。

しかし、私は彼のそのような世界の理解の仕方には賛成できないのだ。


  私の信じる世界はもう少し、美しいものだ。

悪意や争いや汚い諸々が無いとは言わないが、そのようなものを超越して

存在する絶対的な予定調和の善き世界があるのではないかと思っている。


自らが為してきたことが一分の隙も無く、善なら善の如くに、悪なら悪の

如くに還ってくる。そこにはおそらく生死の境も存在しない。

この世界が波動の低い荒ぶる世界であっても、ミルフィーユみたいに最上の

階層には善き世界があるのだろうと。いつかはそこへたどり着けるのではと。


うちのユーダが低めの声であちらのユーダの言葉を語ってくる。

「私は異次元の世界の存在と絆を深めたために、一緒に戦うことを選択し、

こちらの世界に来た。

そちらの世界では死を選ばねばならなかったが」


私は質問した。

「あなたは後悔しているの?」

「後悔などしていない!!」ユーダが声を張る。


私は応えた。ひどい言葉だったかもしれない。

「そう、それなら、よかった」

「もう行かねばならない」

「そう、気を付けて」

「あなたも、お元気で」



異次元の世界にいるユーダの気配は消えた……

気が付いたら私は涙をこぼしていた。

うちのユーダが、まだ中学生の発展途上のユーダがこの体験をどう捉えたのか

少し話したくらいでは、正確に読み取ることは出来なかった。

この世界のうちのユーダの未来に何が待っているかも、わからない。


でも、私は信じる。

私の生んだユーダは彼の言うよりもう少し明るい世界にいるに違いないと。





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