第17話 その名は龍次郎

 ある時、ユーダのそばに小さいときからついている龍の「ドラコ」

が自分を違う名前で呼んでくれと言ってきた。

彼の希望は「龍次郎」。これには理由がある。


ユーダがおなかにいる時分のこと。病院に検診に行くと、超音波検査で

赤ちゃんの他に別にかたまりがあることがわかった。

医師は「着床したのは二人だったんですね。片方が育たなかったんでしょう。

そのうち吸収されて消えますから心配ないですよ。」と言った。

うちの家系には二組ほど双子がいたので、不思議にも思わなかった。


其の後かたまりは消失し、お腹の中ですくすくとユーダは大きくなり、

臨月に近くなったころ、早朝夢うつつの私の耳にある声が聞こえた。


「……順調なんだろ?」


おなかの子に尋ねているようだった。

返事の声は私は聞いていないが、問題なかったのだろう。


難産だったがユーダが生まれ、しばらくすると、その生まれなかった

片方の子供が気になった。

別に流産したわけじゃないけど、順番を待っている子がいるのじゃないかと。


その生まれなかった子供の魂がどうもユーダと小さいころから一緒に

いた「ドラコ」らしいのだ。

ぎりぎりまで頑張ったんだけど、私の体がもたないことがわかり、

生まれることを断念したという。

「だから、俺はガイドじゃない。いなければいけないからいるだけだ。

言わば、こいつの兄弟だな。」


彼が兄弟らしく人間らしい名前で呼んでほしいという気持ちに触れて

ほろりとした。

それから、「ドラコ」は「龍次郎」になった。


考えてみれば、ユーダは彼にずいぶんひどいことをしてきている。

一度などはユーダがイライラした時にそのエネルギーをまともに浴びせ、

消滅させてしまった!


ユーダは護身用に高位の存在から賜った強力な光線のパワーを、

怒った時に誰彼かまわず照射するらしい。

消えたといっても、もとが霊体の龍なわけで復活できるのだが、いくらか

エネルギーの対価が必要である。


ユーダは優しい性格なのだが短気でもある。

幼馴染たちは彼のことを「根は優しい」と評する。枝葉や幹はどうなんだろう。


龍次郎はヒーローや、力の魔神ほど戦闘能力も

防御能力も高くなく、むしろ、ナビゲーターの役割のようだ。


結界を破ってうちへ入ってきた敵に、あっという間に消されてしまったこともある。


ユーダは他の見えない存在から、あれだけ色んな目に遭っても逃げないでいる

「龍次郎」の気持ちを考えろ…と説教された。

その時、厄病神さまを始めとする高位の存在に自分の怒りをコントロール

するようにとも申し渡された。これはおそらく彼の大きな課題になると思う。


龍次郎。通常モードは体長30センチのオレンジ色の龍。

彼は異次元の世界の案内人。何度も蘇り、ユーダを導くものである。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る