第11話 彼のエンディング
偽ヒーローが本物ヒーローと入れ替わったばかりとおぼしき最初の頃。
ユーダに彼が言って聞かせたことがある。
「お前たちは長くは生きられない。
だから、短い一日一日にきちんとした終わりを持てる人間になれ。
れっきとしたエンディングを創れ。
一日一日を大切に生きて、心置きなく終われる人間になれ。
人間には本当のエンディング(死)の前に必ず一つか二つ、別のエンディ
ングが訪れる。いつそれが訪れるかわからないから、日ごろから正しい
人間になっておく必要がある。
別のエンディングをすがすがしく終えることが出来れば、本当のエンディ
ングもまた、きっと後悔なく迎えられる。」
いいことを言うねと、親子で話をしていたのだが、こんなことになるなんて。
「あのころはまだ、ちゃんとしていたんだよ」とユーダ。
ユーダと偽ヒーローとのトラブルが露見した後、即座に本物のヒーローが
やってきた。彼の存在感は独特で、シャープである。
何処を横切って飛んできたか、私でも感じるときがある位だ。
偽ヒーロー(後に力の魔神という良すぎる名前があることを知らされた)は
本物ヒーローとの格闘の末、連れ去られていった。
その時にはユーダも力を貸した.
私には何も感じなくても、ヒーローと偽ヒーローは激しい戦いを繰り広げて
いることがユーダはわかるらしく、落ち着かずイライラしていた。
やがて、彼はある空間をじっと見つめ、しばらくするとほっと息をついた。
偽ヒーローが大人しく吊り下げられるようにして、連行されていったらしい。
「もう、大丈夫だから。」
本物ヒーローはきびきびと言って去って行ったようである。
「偽ヒーローが暴れていたときね。」ユーダは言った。
「一日のエンディングについてのお話をして下さってありがとうございました
って言ったんだよ。
そしたら、急にピキーンと固まったようになって、抵抗しなくなった。」
大人の私から言うと、「ちょ、今それを言うのは嫌味では?」って感じに
勘繰ってしまうんだけど、
10代のユーダとしては、一番印象に残っていたことを言っただけのようだ。
また、偽ヒーローも彼なりにユーダへの友情があったのかなと思う。
種族が違うから何とも言えないけど。
「困った子だったけど。いい奴だったよね。」と私。「処刑されたりしないよね。」
「偽ヒーローは殺せない存在だから。もう一度洗脳(おそらく矯正のこと)して、
どこかでまた何か役目を果たすんだと思うよ。ぼくにとってはいい修行だったかも。」
それからしばらくして、ユーダはしみじみ言った。
「彼は自分がいいエンディングを迎えられない龍だから、僕にあの話を語って
聞かせたんだ。」
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