第10話 ヒーローの失敗?
ユーダの中学校は、古くからの歴史ある資産家のお屋敷跡に建って
いる。そのためか彼は入学してから何人かの地縛霊を見かけている。
ドアのそばにメイドさんの服を着た人を見た時は、「ずっとご主人の命令を
待っているんだね。」と言っていた。
もう一人、二階に茶色の服を着た女の人がいるらしい。
いつも全くしゃべらない。
一度廊下を走っている姿を見かけたが、必死で走っているのに前へ進めない
様子だった。二階の一画に縛り付けられて動けないものらしい。
(地縛霊はゆるくきゃわいいネコなどで擬人化できるものではないと思う。
どうしようもなく小昏い存在はあるのだ。たとえ、どうミスリードしよう
とも。)
最初の頃、ユーダは彼女たちを何とかしてあげたいと言っていたが、
見えるだけの彼では手の打ちようがなかった。
ある時、ユーダは、その茶色い服を着た女の人と会話をしたらしい。
確かに話をしたというのだが、たまたま風邪気味で熱があったせいか内容を
覚えていなかった。
しかし、彼に記憶が無くても傍にいたガイドたちは分かっていて、しかるべき
処置をしたのかもしれない。
ある時期をきっかけに彼女たちはいなくなり、ユーダもほっとした。
ともかく、そういうあまり良くない環境と生徒たちの思春期特有のエネルギー
の不安定さもあいまって、この中学校はヒーローに言わせると「魔界」と
化しているそうだ。
ガイドの一人「ドラコ」は低波動の影響を受けて調子を崩し、学校への付き
添いは禁止となり、後によそへ研修に行ってしまった。
もと外国人のロマンスグレー「紳士」は人間だったせいか、平気なようである。
そのうちヒーローもおかしくなりはじめ、一度はユーダが「もう家へ帰って!」
と怒る位の事態になった。
私もいきさつを聞いて心配していた。
私はどうも霊感は多少はあることがわかったのだが、目に関してはほんとに普
通で、ユーダの見ているものは見えないので、彼が説明してくれなければ何も
わからない。
荒ぶる龍の魂は魔界の瘴気に弱いようだ。
魔界(学校)に毎日付き添うことで少しずつヒーローの中で何かがズレてい
ったのだろう。
考えてみれば、ユーダもうっすら気づいていたようだ。
ヒーローの外見が真っ黒で目が赤く、まるで悪者のように変わったと言っていた。
面倒見はよいのだが、言葉の荒さと、時々見せる、寿命が短く特殊な力を持たぬ
われわれ人間を軽視する言動に私も何かを感じていた。
例えば、人間として見た時に(龍だけど)……こいつ、そんなに立派な奴じゃ
ないんじゃないかなと、思ったのだ。
また、ユーダの周囲に様々な問題が起こるのも心配の種だった。
テストの最中に目に見えない賊から、襲撃をうけたりとか。
学校の帰り道でも、自宅のお風呂でも色々な目に見えない賊がやってきて、
そのたびにヒーローが分身の術を使ったり、ユーダ自身の光のパワーで応戦
したりしていたようである。
でも、今まではそんなことなかったんだよ。
何だかおかしいよ。どうしてそういう事になってしまったの?
ユーダと話をした。ユーダも打ち続く闘いの日々(!)にくたびれていた。
彼が説明する賊の様子がとても底の浅い「ワルモノ」のような感じがする。
作り物、張りぼて感がぬぐえない。
「それ、ニセモノなんじゃない?」と、思わず口をついて出た私の言葉。
ユーダがはっとする。と、同時に目に見えないヒーローもドキリとしたようだ。
それから、修羅場になったらしい。
私にはユーダの言動しかわからないけれど。直前にお風呂で大きな魚の化け物
と遭遇し、ユーダの気も立っていた。
結論。すべてはヒーローの狂言だった。
ユーダを鍛えるため。ユーダを自分の相棒に育てるため。
最初に来ていた切れ者の龍の「ヒーロー」と、今いる黒い龍のヒーローは
別人だったのである。
三次元ならば、見分けられたかもしれないが、別次元では難しかった。
経験の浅いユーダも、私も含めてすっかりだまされてしまった。
本物のヒーローは最初に言った通り、長逗留することなく、ユーダのもとを
去っていたのである。
他のガイドたちや勘の良いはずの本物のヒーローが何も言わなかったのは、
ユーダと偽物ヒーロー双方の修行のためだったという。そ、そんなあ。
見えない世界のルールはよくわからない。
最初は良かったのだ。兄貴な性格の偽ヒーローとも仲良くやれた。
しかし、日常が殺伐としてきて、ユーダの心も荒れ、疑いが生まれた。
「魔界」の中学校の影響と、ユーダの猜疑心で偽ヒーローの本質が現れて
しまった。
後にもう一人のガイドのドラコが「あいつも悪いが、おまえも悪かったん
だ。」と言ったという。修行は失敗してしまった。
偽物ヒーローはやりすぎたのである。厳しく育てるつもりが、ユーダを
怖がらせ、疲弊させてしまった。
続きます・・・
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